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「私、渡辺布由って言うんだ」
「あんだぁ? 突然」
「名前を聞くときは、まず自分から名前を教えなさいって、お母さんが言ってたから」
「つまり、俺の名前が聞きてえのか?」
少年は綺麗にヘタだけ残してトマトを食べ終わると、真っ赤な口元をぐいっと袂で拭いた。袂が赤く染まったが、少年はまったく気にしない。そして残されたヘタに、ちょこんと腰掛けた。
「そりゃあ、無理な話だな」
「どうして?」
「妖ってやつぁ、名前を知られたら運命まで握られちまうからな」
「ええ? 自分は聞いておいて?」
「お前が、勝手に教えたんだろ?」
確かにその通りだ。
もっともな指摘になんだかおかしくなって、「うふふ」と布由が笑うと、つられて天狗の少年「ぷくく」と笑った。
「人間の教えは、妖の教えと真逆だな」
「そうだね。人間は『先に教えなさい』だもんね」
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