4人が本棚に入れています
本棚に追加
「布由ー! 話し声が聞こえるけど……誰か遊びに来てるのー?」
そこに、噂の母親がやってきた。
襖を開けて、まだ夕方だというのに布団の上に一人で居る娘を見て
「あら、お布団の上で何をやっているの? お友達は?」
と聞く。
「ホラ見て、お母さん。ちっさい天狗さん。お友達になったの」
布由が天狗を手のひらに乗せると、ずいっと母の前に突きつけた。
「布由、こら。急に母親に紹介するんじゃねー!」
なぜか天狗は慌てていた。
「あ、あの、僕……、布由さんとお付き合いさせていただくことになった天狗です!」
(なんで、急に『僕』って言ってんの?)
その上、変に畏まっている。
布由は小首を傾げた。
「天狗さん?」
しかし、今度は母が首を傾げた。
母は布由の手の平を目を凝らしたが、何も見えない。
「……そうか! 布由。無理だ」
天狗が何かに気付いたようだ。
「え?」
「普通の人間には、俺は見えないんだった」
転生の為に卵に入っていた所為か、忘れているらしかった。
「そうなの? じゃあ、どうして私には見えるの?」
「お前が、俺の親だからじゃないか? それか……」
天狗が言いかけた所で、布由の母がそれを遮った。
「そろそろ夕飯よ。おままごと遊びは止めて、手を洗って居間にいらっしゃい」
布由の言うことは、小さい子によくある他愛無い夢語りだと思ったらしい。
用件を言うと「冷めないうちに来てね」と早々に部屋を出て行った。
母が出て行ったのを見計らって、
「それか……、なあに?」
布由が先ほど「どうして布由には天狗が見えるのか」の続きを尋ねた。
「お前が親だから。それか、お前の願いだから……だろ?」
「願い?」
「俺と一緒に遊びたかったんだろ? ずっと卵にそう言ってたじゃねえか」
と少年は嬉しそうに微笑んだ。
「鼻は低いが、布由が親になってくれて良かったよ。ありがと」
と、再びちょっと皮肉を交えて礼を言った。
最初のコメントを投稿しよう!