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「小さな二つの懐中時計は直ぐに渡せたのだがこの大きな懐中時計は少し調子が悪くて調整が必要で直ぐには渡せなかったんだ」
高倉は奏多に是非、パーティーに出席してほしいとと招待状を奏多に送っていた。
その時までには懐中時計も直って渡せると思っていたのだが奏多がそのパーティーに来る事は無かった。それ以来連絡も取れなくなりこの懐中時計を渡せないまま月日が経ってしまった。
高倉の目には今でも奏多が嬉しそうに懐中時計に、ボロボロの写真を見ながら家族の自画像を描いている姿が思い出せる。
訳ありの青年を疑う事もなく招き入れた高倉は、奏多にその事を聞く事はしなかった。
辛い状況なのは目に見えて分かる。
だが、そんな状況でも奏多はいつもニコニコとして楽しそうに絵を描いていた。
「これをどうしても蒼井君の息子の君に渡したくてね」
黎の頬には自分でも気付いていないのだろう。
一筋の涙が溢れていた。
「父さん……」
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