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プロローグ
「礼桜、今日はお願いねー」
「……分かってる」
「マップで検索したら、谷町線の四天王寺前夕陽ヶ丘駅が最寄り駅って出てきたから、あとはルート案内を見ながら行ってねー」
「………」
朝から元気な母の声が、キッチンから飛んできた。
学校帰りに四天王寺の近くにある革小物専門店に寄ってバッグを修理に出してほしいというお願いに、すこぶる面倒だと思いながら、不織布に包まれているショルダーバッグをリュックの中に入れた。
学校指定のリュックなのに大容量とは言えず、微妙な容量だから、バッグが潰れないようファイルや筆記用具の配置を整えた。
今日が始業式で本当によかった。
教科書があったら絶対に入らない。
忘れ物がないか再度確認してリュックを背負った。
「いってきます」
「いってらっしゃい! 帰りよろしくねー」
母の声に見送られ、私は玄関を出た。
空には雲一つない青空が広がっている。
視線を少し下げ遠くを見ると、あべのハルカスが見えた。
今年の桜の開花は例年より早かったため、既に葉桜へと変わっている。
新緑の中にわずかに残る薄紅色の花が、桜の終わりを告げており、その儚さに少しだけ物悲しさを感じた。だけど、それよりも、始業式まで散らずに踏みとどまって咲いてくれている喜びのほうが大きい。
始業式や入学式に桜が咲いていると、頑張ろうと思えるから。
今日から高校2年生が始まる。
私は深呼吸して気合いを入れ歩き出した。
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