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男の様子を確認しながら笑っているお兄さんを見ていると、バッグを盗られたおばあちゃんがようやくやってきた。
……おばあちゃん、ごめんなさい。このお兄さんの登場で、おばあちゃんのこと頭から抜けてました。
ぱっと見、おばあちゃんも怪我はないようだ。打ち身は分からないけど、大きな怪我はなさそうでよかった。お兄さんのせいでおばあちゃんの存在を忘れていた私は、気まずさを感じながらも、手に持っていたバッグを渡した。
「お嬢ちゃん、ほんまおおきに!! お金よりも大事なもんが入ってたから、お嬢ちゃんが取り返してくれへんかったらと思うと……。ほんまありがとうね!!」
私の手を握り上下に振りながら体全体で感謝の言葉を伝えてくれるおばあちゃんに、私のほうがたじたじになってしまった。
おばあちゃんの話では、バッグの中には今度結婚する孫娘にプレゼントするためのネックレスが入っていたそうだ。普通に販売されているネックレスではなく、おばあちゃんが結婚するときに貰った婚約指輪を今時のデザインへとリフォームした、思い出の詰まった世界に一つだけのダイヤモンドネックレス。
「新品を贈ると言うたんやけどねえ。孫娘はどうしても私の婚約指輪でリフォームしたものを持っていきたいって聞かなくて。将来女の子が生まれて大きくなったら譲るんや言うてくれて」
どこか照れたような感じで、でもとても嬉しそうに教えてくれた。そして、それを受け取りに行った帰りにひったくりに遭ったそうだ。
見て見ぬふりをしなくて本当によかったと心から思った。
男を見ると、変わらず蹲ったままだが、静かになっている。私たちの話を聞いているような気がした。少しは反省しているのだろうか。だからといって許すことはできないけど。
私は、おばあちゃんのバッグを取り返せたことに満足していた。
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