scene 10

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scene 10

 遊歩道をひとまわりし、公園を抜けて、商店街へ向かうのが、私なりのウォーキングコースになっている。整備と清掃が行き届いた歩道は歩きやすく、道幅も充分にとられている。池岸に設けられた柵越しに、小さなが見える。  通称〔弁天島〕である。岸と島の間に橋は架けられていない。上陸を望む者は、ボート乗り場でボートを借りるか、職員に頼んで、運んでもらうかのどちらかである。時々、泳いで渡ろうとする強者(つわもの)(馬鹿者?)がいるらしいが、同池の遊泳は原則禁じられている。水難事故を防ぐためである。案外水深の深いところがあるのだ。  弁天島、最大の名物と云えば、が制作した〔蛇頭観音像〕である。当地の伝説に着想を得た狂山が、三年の時を費やして作り上げた巨像である。完成後、狂山はこの超大作をなまず公園の運営部に寄贈。本人は「気まぐれで作った…」と述べているそうだが、虻沼アートの傑作として、専門家、好事家の評価も高く、美術書などにも掲載されている。見学拝観は無料だが、像の傍に設置されている募金箱は常にいっぱいで、公園の維持、管理費に充てられている。  私は遊歩道を離れて、なまず公園の中心部へ足を進めた。ここに有名な湧泉がある。エド百名水のひとつ〔水龍の泉〕である。こんこんと湧き出す清冽な水は、茶やコーヒー、ウイスキーの水割りに最適である。凍らせてもいいし、もちろん、そのまま飲んでも旨い。この水が来園の理由になっている場合も多い。容器持参で訪れ、泉水を汲むのである。休日になると〔泉〕の前に行列ができるほどであった。 「……」  その瞬間、私は作業中の魔宮遊太を視野にとらえていた。魔宮は2リットルのボトル(※園内売店で購入可能)に泉水を詰めていた。慣れた手つきである。自分の飲料用として使うのだろうか。あるいは、おたま食堂の調理用であろうか。  水は料理の基本である。水次第で仕上がりが全然違ってくる。もっとも、私の舌はさほど繊細ではない。水道水を使った料理か、天然水を使った料理か。区別しろと云われても、正確に答える自信はない。  どうやらも、私の存在に気づいたようだ。水汲みを中断した魔宮青年が私に向かって手を振っている。さて、どうするか。 dfbd2cb9-5614-4019-9f25-b1d093222e5f
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