scene 15

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scene 15

 画面に[つづら]が現れた。漢字で書くと葛籠。他のRPGでは大体「宝箱」と呼ばれている。警戒を要するのは『ウィザードリィ』シリーズ同様、様々な罠が仕掛けられている点である。迂闊に開けると、壊滅的ダメージを被る場合がある。この際に役に立つのが「ワナかいじょ」の技能である。  戦闘員(コンバットマン)は最初から「ワナかいじょ」を具えている。又、人数が多ければ多いほど成功率も高くなる。我が隊にはコンバットマンが五人もいる。つづらを開けた途端に「遊撃隊(パーティ)全員が消し飛ぶ」というような展開にはならぬと信じたい。今回の罠[どくばり]をはずし、つづらの蓋を開けた。  初陣の戦利品は「ぜにぶくろ×5」であった。モンスターの群れから奪取した財宝類を前線基地(アジト)に持ち帰り、本部へ[てんそう]すると、それらの価値に応じた収入を得ることができる。すなわち「コストが増える」わけだ。コストが貯まれば、改造手術、武器と防具の購入、アイテムの開発など、やりたいことがやれるようになる。ゲームはまだ序盤の序盤である。当面の間は「貯金」に励むしかない。地道な戦力の整備はRPG攻略の基本である。私は定跡に忠実なプレイヤーなのだ。  第二のバトルは[こおに(4)]であった。同Aに攻撃を集中する。卜伝、義輝に続いて、信綱が斬りつけると、同Aはと血飛沫を噴き上げながら、画面から消滅した。この「血飛沫のアニメーション」が残酷すぎるとして、闇塚堂に抗議の電話をかけたり、苦情の手紙を送りつけてきたりする者がいたそうである。敢えて云うならば、たかが遊戯(ゲーム)だ。馬鹿馬鹿しい気もするが、当人たちは至って真剣なのだろう。ともあれ、なかなか難しい世の中になってきたのは事実である。  義輝が[こおにD]をやっつけた。つづらの中身は「ぜにぶくろ×3」であった。だが、こちらも相応のダメージを受けている。回復用のアイテムを持たぬ我が隊には連戦をこなす余裕がない。一旦、アジトに帰ることにした。その途中、第三の魔群[べとべとさん(5)」に遭遇し、肝を冷やしたが、どうにか斬り抜ける。  アジト帰還と同時に、メンバー全員の生命力(HP)が自動的に満タンになる。これに関してはコストがかからない。但し、かぜ、どく、マヒ、せきか、きょうき、しぼうなど、状態異常のキャラクターにはこの恩恵は適用されない。正常に戻すためには、病人の治療や死者の復活を行う必要があるわけだが、こちらは全て有料である。特に[そせい]には多額のコストがかかる。  私は何かにとり憑かれたみたいにして、戦闘と帰還を繰り返した。気がつくと、コストが5000を超えていた。を誕生させるか。各員の武装強化を優先するか。まことに悩ましい。キッチンに行き、二杯目のコーヒーを淹れる。 21b0c9f3-c3a7-4cab-8582-4caaaa9b3f4b
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