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scene 3
私は受話器を取る。
「もしもし」
「俺だ」
最盛期の野沢那智そっくりの声。エド暗黒街の実力者、長谷川豹馬である。
「御無沙汰しております」
「元気か」
「元気です」
「仕事の調子はどうだ?」
「どちらですか」
「裏だ」
「消え去りました」
「何がだ」
「復帰の可能性です」
刹那の沈黙があって、
「正気か」
「正気です。ただ……」
「ただ、どうした?」
「完全廃業の前に借りをお返ししたいとは思っています」
「借りだって?そんなもの、あったか」
「こうして、エド落ちをせずに暮らしていられるのは親分のおかげです」
「嬉しいことを云うじゃないか。さすがは超A級の仕事師だ。仁義を知っている」
「超は付きません」
私の言葉に、長谷川が苦笑する気配が伝わってきた。
「俺は最強水準のカードを手に入れた…そう考えていいんだな?」
「御用の際はこちらの番号にお願いします」
「俺より先に依頼者が現れたらどうする」
「断ります、すべて」
長谷川は少し驚いた様子で、
「そんなことをして、大丈夫か」
「仕事はある程度選んできました。閉業まで変わりはありません」
「わかった。余計なことを云ったようだ。今度会わないか。飯でも食おう」
「楽しみにしています」
受話器を置きざまに、私は本体の電源を「OFF」にした。この瞬間から、翌朝目覚めるまでは、私の時間である。誰にも、邪魔はさせない。
♞こちらは『魔宮遊太の副業』の長谷川豹馬であります。この時は、スライムハンターの元締めという役でした。外見モデルは、往年の大スター、アラン・ドロン。
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