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scene 5
生頼範義風のド迫力パッケージイラスト。夢にまで見た現物を肉眼にとらえていた。私は『妖怪御殿の攻防』を開封し、ゲーム機の差し込み口にカセットを差し込んだ。紛れもない「新品」である。マニアの中には、定価の十倍を払ってでも手に入れようとする者がいるかも知れない。生産数自体が少なかった分、中古市場での価値は相当なものらしい。
そのような貴重品を〔でぼん亭〕の亭主は、殊更ふっかけることもなく、定価プラス僅かな手数料で売ってくれた。まったくありがたいことだ。老婆の厚意に感謝を捧げなくてはなるまい。
ゲームを始める前に、私は取扱説明書に眼を通した。攻略本の類いは「原則読まない…」というのが私の主義である。この説明書が唯一の指南書というわけ。いわゆる早解きには興味がないし、又、意味がないと思う。試行錯誤を重ねながら、自分なりのやり方を見つけてゆく。その過程が面白いのである。
絶海の孤島。密林の奥にそびえる神秘の迷宮〔妖怪御殿〕が、このゲームの舞台である。地上四階、地下六階。十のダンジョンが冒険者を待ち受ける。路内は罠だらけ、仕掛けだらけ、そして、化物だらけの人外魔境だ。
勇敢にも(あるいは、無謀にも)これに挑戦するのは、世界征服を策謀する闇黒組織〔P〕が派遣した20人の戦闘員たち。彼らは、妖怪御殿と、その近傍に建設した前線基地の両エリアを行ったり来たりする日常を延々と送ることになる。
私は本体の電源を入れた。難易度(1~5の五段階)の設定を済ませてから、キャラクターの登録画面に進んだ。20人の我が分身たちの名前を考えなくてはならない。これを面倒に感じるプレイヤーもいるだろう。その際は「自動命名」を選択すれば、コンピューターが適当に名付けてくれる。各人各様、自由にやればいい。とは云うものの、いささか興に欠ける。
やはりここは自分で付けたい。嬉しいのは、ひらがな、カタカナ、英語アルファベットに加えて、漢字(全1500字)が使えることである。私は書棚に指先を伸ばし、武芸者の本を抜き取る。それを参考にしつつ……
塚原卜伝、足利義輝、上泉信綱、真壁道無、土子土呂助、山本勘助、柳生宗矩、柳生利厳、柳生十兵衛、御子神典膳、小笠原玄信斎、荒木又右衛門、宮本武蔵、佐々木小次郎、青木鉄人斎、千葉周作、岡田以蔵、山岡鉄舟、近藤勇、沖田総司
以上、コンバットマン20人の名前を打ち込んだ。剣豪軍団の誕生。現実には絶対にありえない豪華メンバーが揃った。ネーミングに見合う活躍を期待しよう。
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