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scene 7
ゲームに没頭すると腹が減るらしい。私の胃袋が、おたま食堂のおにぎりを求めていた。だがその前に、もうひとつやることがある。武器と防具の調達である。まさか、裸の状態で妖怪御殿に突入するわけにもゆかぬ。
私なりに考えた結果、前衛の三人(卜伝・義輝・信綱)用として「バトルナイフ」と「スモールシールド」を購入した。ここで、残金が50になってしまった。他に買えるものと云えば「治療薬」ぐらいである。後衛の三人(勘助・武蔵・又右衛門)は丸腰だ。少々辛いが、しばらくの間は防御に徹してもらうしかない。
ばった怪人こと、塚原卜伝には、斬り込み隊長的役割を期待している。同怪人は兜類と鎧類は装備できないが、武器類と盾類は一部可能である。加えて、敏捷性が高い。機先を制す。相手よりも先に攻撃を仕掛ける。あるいは、仕掛けられることは、複数の敵と戦う場合、相当重要である。これは、現実の戦闘にも当て嵌まる。
☖塚原卜伝〔ばった怪人〕装備:バトルナイフとスモールシールド
☖足利義輝〔コンバットマンB〕装備:バトルナイフとスモールシールド
☖上泉信綱〔同C〕装備:バトルナイフとスモールシールド
☗山本勘助〔同D〕装備なし
☗宮本武蔵〔同E〕装備なし
☗荒木又右衛門〔同F〕装備なし
時計の長針と短針が「11時5分」を刻んでいた。ここまでの行動記録を保存してから、私はゲーム機の電源を切る。本格的な迷宮探索は明日からにしよう。
二杯目のウイスキー・フロートを作った。呑みつつ、私はおにぎりを食べる。塩鮭・昆布・おかかの三種。手抜きのない仕事であり、脇に添えられた自家製(と思われる)沢庵漬けも旨い。明日の昼飯は、同食堂の日替わりにするか。あるいは、仮面の巨漢亭主が経営する〔麺処 がしゃどくろ〕の醤油ラーメンにしようか……。
卓上を片づけてから、私は三杯目を作る。ラジオをつけると、来生えつこ作詞、来生たかお作曲の『夢の途中』が流れ始めた。歌い手は、来生たかお本人でもなければ、薬師丸ひろ子でもなかった。自称名曲(歌)カバーの天才、アンドロギュヌス(両性具有)系スーパーアイドルの源シオールであった。綽名、愛称はシオたん、美王子、魔少年、聖少女など。
カマクラ出身のシオールは、中学卒業と同時にエドへのぼり、たちまち芸能界の人気の頂点に駆けあがり、所属する弱小事務所を城みたいなビルに変えたという。時折飛び出す自己愛発言が、爆笑や顰蹙を誘っているらしい。別段聞き耳を立てていたわけではないが、おたま食堂の女将とバイト青年が、そんな話をしているのを聞いたことがある。全盛期の水島裕と島津冴子をミックスしたような独特の声。
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