scene 8

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scene 8

 どちらかと云えばラジオが好きで、テレビ(放送)はあまり観ない方である。又、アイドル系のタレントに関する知識も絶望的に欠けている。そんな私でさえ、魔少年こと、源シオールの顔と名前は知っている。彼が老若男女に愛される魅力を有していることは、さしもの私も認めるしかない。  なかなかの行動派でもあるらしい。得意先に自ら乗り込み、契約を結んでしまうことが少なくないという。企画能力や営業センスにも恵まれているのだ。ゆえに業界内では〔マネージャーいらずのシオール〕と呼ばれているそうである。何もかもできてしまう万能型だが、こういう人間は激しい嫉妬心を誘う。。芸能界も例外ではない。一部に猛烈なアンチ勢力が存在しているのは、そのためだろう。  もっとも、シオールは「云いたい人には云わせておけばいい…」というスタイルのようだ。雑音や誹謗に振り回されることなく、自分の仕事に徹する。大した度胸である。姫君(プリンセス)めいた風貌をしているが、内面には武者(サムライ)の魂が宿っている。  現時点における役者シオールの代表作と云えば、やはり『女装探偵』になる。番組の略称はジョタン。三流劇画を原作にした深夜枠の低予算ドラマだが、これが大当たりに当たったのである。  主人公の高校生が〔謎の女探偵、星倉七美〕に変装()し、世間(主にエド)を震撼させる難事件、怪事件を快刀乱麻、縦横無尽に解決するという内容。  極度の馬鹿馬鹿しさに良識層の失笑と反感を買った。しかし、ジョタンには荒唐無稽の壁を突き崩した面白さがある。特に「原作を超えた…」と評されるシオールの演技は、まさに迫真の域に達しており、皮肉や揶揄を飛ばすアンチたちをも黙らせた。今年の秋公開を目指して、劇場版の制作が進められている。実写版のオリジナルキャラクター、七美に対抗する〔強力なライバル〕が登場するそうだ。  シオールの歌が終わり、本日最後のニュースが流れ始めた。洗面所に入り、歯を磨いた。ラジオの電源を切り、寝室のカーテンを必要な分だけ開けた。ガラス越しに、夜空に浮かぶ朧月が見えた。他に「異常」はない。カーテンを閉じ、布団にもぐる。眠気が訪れるまで、池波正太郎の随筆を再読することにした。 07c11d59-4931-4afd-b1a6-47ac6d1123e7♞こちらは『スライムハンター』版(?)のシオール。ゴーレムさんと交戦中です。
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