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■悪魔王と見習い神
勇者を魔界へと案内した数日前。
魔王と勇者が通うことになった魔法学校で行われた使い魔召喚の授業。魔王として召喚されたあいつは、悪魔王である俺を召喚できる程の実力者だった。
「――として生きた記憶が全く無いわけじゃない。断片的にしか思い出せないけれど、それでも俺は――の魂を宿した者として、その意志を継ぎ決着をつけなければならない。……もう二度と、悲劇を繰り返さないためにも」
召喚された先で見習い神のその声が聞こえた時、思わずその姿を探していた。
前世の記憶……そして、英雄として語り継がれるあいつと未熟過ぎる己との差に悩み、道化を演じる事で目を背けていた部分も少なからずあったと月影は語っている。
「……神として転生したんだから、未熟さを理由に、いつまでも逃げていちゃいけないよな」
そう告げ、周囲を見渡して、英雄達の子孫や勇者や魔王として召喚された彼らを眺めていた月影が、どうやら俺の視線に気付いたようだ。
目が合ったので、月影の目の前まで転移させてもらった。
「……何か用事?」
無意識にだろう。一歩下がる月影。
「――の記憶……消えなかったのだな」
問いながら、一歩前に進む。
「……クルーエル、何で近付いてくるのかな?」
「逆に問うが、なぜ逃げる?」
「条件反射!!」
「……ふーん……」
足を止め、そのまま様子を見ることにする。予想通り、月影が壁際まで下がり、壁に背を預けた状態でそれ以上逃げられなくなったのを見て、つい笑ってしまった。
そしてふと芽生えた悪戯心。
月影の正面から、両肩の上くらいの位置の壁に両手を伸ばしてその動きを封じてみた。後ろは壁、目の前には俺、頭の両側は壁に伸ばした俺の腕。
「もう逃げられぬぞ。さあどうする?」
「……ぅ、な、何で転移できな……」
四方を塞がれた月影は、焦っているように見える。
「焔でさえ俺の前では魔法が使えなくなる。……今のお前では、俺にすら敵わない」
召喚された勇者も魔王も、かなりの力の持ち主だが、俺には、この世界の創造主に魔界の管理を任されただけの力がある。
「……強くなれ月影」
そう告げて、月影から離れ、その頭を撫でた。
「お前があいつになる必要などない。お前は月影として生まれたんだ。月影として強くなればいい」
月影から手を離し、微笑みを浮かべる。うまく笑えているといいが……。
「……救えなかった俺の言葉では説得力はないが、悪魔王ではなく、元見習い神として言わせてもらう。……失って後悔する前に全力を尽くせ。世界の理を破る事になろうが構わぬ。世界の意志が望むならば、多少の事はなんとかなる」
「助言として受け止めておくよ」
そう言って笑った月影の顔に、もう迷いはなかった。
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