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■悪魔王と天使と見習い神
あいつが敵の呪いによって寿命を縮め、他界してから五百年……あいつは神の息子として転生し、見習い神と呼ばれていた。
「なぜ、魔界へ連れてきた?」
転生したあいつのお目付け役を任されていた天使は、まだ三歳くらいの見習い神を抱えて俺の元へとやってきた。
「天界にいると、他の天使達が甘やかすのですよ。……皆、かつて使い魔契約を結んだ主が、こうやって転生したことが嬉しいようでしてね」
「……前世の記憶は無さそうだがな」
金髪碧眼。黒髪で琥珀色の瞳だったあいつとは、当然ながら見た目も似ていない。
幼い見習い神は、己を抱えている天使の服をぎゅっと握っている。時々視線は合うが、すぐに目を逸らされてしまうので、前世の記憶があるとは思えなかった。
「本来……転生の時には残らないものですから。あなたや私のように、前世の記憶があるのは特殊なのですよ」
この天使と俺に共通点があるとするならば、別の世界にあった魂が転生した姿である……といったところか。
世界が滅びた記憶も、守れなかった後悔も……魂が記憶するままに、前世の記憶として残っている。
「……敵の封印は、いつか解ける。その時に、この子を巻き込まずに済めばよいのですが……そうはいかないでしょうから」
「せめて、自分の身は自分で守れるように、俺にこいつを鍛えろと?」
「そういうことです。魔界でならば、それが可能でしょう?」
人間に対して憎しみを抱いている者はいても、神を憎んでいる魔族はいない。だからこの天使も、見習い神を魔界へと連れてきたのだろう。
「天界には存在せぬ魔物も生息しているが……魔境の森に出現する魔物でさえ、地上では熟練の術士などでなければ苦戦を強いられる討伐レベルの魔物ばかりだぞ」
「ですから、天界から勝手に出ると危険だと教えるにはちょうどいいでしょう?」
にっこりと、よい笑顔でそう告げた天使は、引き離されまいと服を掴む幼い見習い神を宥めて俺へと預け、夕刻に迎えに来ると言い残して天界へと帰って行った。
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