◆大学一年の冬から大学二年の夏

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体を拭き終えた船橋はタオルを置き、マグカップを受け取ると手を温めながらゆっくりミネストローネを飲む。 「はー、落ち着きました…」 Tシャツを着るのを諦め、薄手のパーカーを着ている。少し寒いのではと心配だ。 「寒くないか?」 「大丈夫です。それにしても、先輩の望遠鏡が濡れなくてよかった」 「いや、お前が風邪引く方が心配だよ」 テントに打ちつける雨の音がすごいけど、天気予報では雨ではなかったからにわか雨的なものだろう。だがあがっても外に出て天体観測したら、船橋の体はますます冷えるだろう。 「天体観測はまたリベンジするか」 「そうですね…先輩、次も連れて行ってくれますか」 「当たり前だろ」 手を伸ばし、船橋の頭をついつい撫でる。するて船橋は少し微笑んだ。 ふと俺は卒業式のときのことを思い出した。成田が触れた場所に俺が触れるのをやめようとしたとき、船橋は『優しくしてもらっていいですか』と言ってきたことを。 頭を撫でていた手を離そうとすると、船橋は俺の手首を掴んだ。 「もう少しこのまま撫でてください」 隣で座っていた船橋は俺の肩に頭を乗せる。俺はまた頭を撫でながら船橋の体温を感じていた。 テントにかかる雨の音以外には何も聞こえない。 ふと、今が船橋に自分の気持ちを打ち明けるチャンスなのではないかと思った。だけど、拒絶されこうやって慕ってくれる船橋が居なくなってしまったら、と思うと怖くてなかなか口に出せない。 そう、俺は結局高校のころから何一つ変わってない。髪の色を変えても、一人暮らしを始めても車が運転できるようになっても、好きな子に告白する度胸がないのだ。 「君津先輩」 突然声をかけられ、驚く。心臓の鼓動は聞こえていないだろうか。 「何だ?」 「僕、先輩に謝らないといけないことがあります」 そう告げられ、思わず息を呑む。謝る?何をだろう。船橋に謝ってもらうようなことなんか、ないのに? 船橋は体を反転させて、俺の方を向く。至近距離で見つめられ顔が赤くなっていないだろうか、と心配になる。 「高校のとき、僕が成田先輩のことを思ってるの君津先輩にバレてた話」 卒業式に話したことだ。あの時はかなり驚いたけど… 「もう一つ。僕は気がついていたのに、知らんぷりしていたことがあるんです」 何だろうか。いや、分かってしまったかもしれない。でも、そんなこと… 少し間を空けて、船橋は決意したかのように口を開いた。
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