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◆高校三年の春
白馬に乗って攫うでもしてやれば良かったか。
満開の桜が舞う、高校の卒業式。成田の制服の裾を引っ張りながら、泣いている船橋を見ながら俺はそんなことを考えた。
泣いている彼の頭を成田はポンポンと撫でると、優しく微笑んでいた。
「また会えるだろ、大学で待ってるから」
「はい!合格するように頑張りますから待っててください」
彼の泣き笑いの顔を見たとき、俺は胸に何か刃物を突きつけられたような感覚を覚えて二人の姿を視線から外した。
成田悠と船橋正史はともに天文部に所属していた。俺、君津啓介も一緒だ。
成田と俺は同級生。船橋は学年が一つ下。
授業が終わり部員たちが部室に集まると、成田の隣にはいつも船橋がいた。百八十センチの成田と百六十八センチの船橋が望遠鏡の横で談笑している姿を何回みたことか。
元々、船橋を天文部に引っ張って来たのは俺だ。俺が二年生で船橋が新入生だった春、入部勧誘のチラシを片手に部室の前でうろうろしていた船橋に声を掛けたのだ。
『天文部に興味あるの?』
背後から話しかけたから、船橋は驚いてウヒャ、と変な声を出してこちらを振り向くとまだあどけなさの残った顔にクリクリした大きな目。俺と目が合うとすぐ笑顔になった。
『はい!入部体験したいです!』
目を輝かせる彼に、俺は新入部員を一人ゲットしたぞと内心ガッツポーズをとった俺。
入部体験後にすぐ入部した船橋は人懐こい性格で、みんなに好かれた。特に成田は船橋をよく可愛がるようになっていき、船橋も慕っていた。
初めは仲の良い二人だなと見ていたけれど、いつのまにかイライラしている自分に気がついたのは、成田が部長になった三年の春。その頃には船橋の成田への慕い方は何となく度を超えているように感じていて、俺は『船橋とは俺が先に話したのに』なんて訳の分からない嫉妬心が湧いていた。その嫉妬心が船橋に対する恋愛感情からきたものであることを確信したのはその年の夏。
少し前の話をしよう。
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