◆大学一年の冬から大学二年の夏

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翌朝。船橋の寝ている部屋から物音がしたので、ドアを開けると船橋がちょうどベッドから降りようとしているところだった。 「おはようございます。すみません、ご迷惑をおかけして…」 「謝らなくてもいいよ、それより熱は」 船橋の額に手をやると熱は下がったようで一安心した。そして船橋のお腹がぐー、と鳴って真っ赤になってしまった。 「腹、減ったよな。お粥食べれる?」 「えっ作ったんですか?」 「そんな大袈裟な。ネット見れば作れるよ。俺も腹減ったから食べよう」 昨日着ていた服は乾いてなかったので俺の服を貸してやって、着替えた船橋と朝ごはんを食べる。 お粥に梅干し、卵焼きと偶然冷蔵庫にあった鮭を焼いただけの質素なご飯だけど船橋は喜んでくれた。最後に熱いお茶を飲むと船橋は大きく背伸びをする。 「美味しかったです」 「よかった」 時計を見ると八時前。家に帰るにはまだ早いかもしれない。やがて船橋は俺が時間を気にしていることに気がついたようだ。 「君津先輩、もう少しいていいですか?」 「うん。今日は休みだしお前がいいならゆっくりしていけば」 「…昨日、あんなこと言ってごめんなさい」 船橋は深々と頭を下げる。ああもう、昨日の夜から船橋はずっと謝ってばかりだ。俺は下げた頭の髪の毛をくしゃくしゃにする。 「もう、謝るのはなしにしてくれよ。俺の気持ちが分かってるなら、尚更辛いからさ」 「…」 髪の毛をくしゃくしゃにされたまま、船橋は頭を上げず何も言わない。窓の外から聞こえる鳥の鳴き声。 「俺は元気で笑顔いっぱいのお前が好きなんだから」 今まで長く言えなかった言葉が、簡単に自然と出てきた。もう隠さなくていい。むしろ早く言っていれば船橋も悶々としなくてよかったはずだ。 ふと見ると船橋の耳は真っ赤になっていた。 「…なあ、船橋。一つだけ教えて?何で俺の気持ちが分かったのに離れようとしなかったの」 ビクッと体が揺れて、正座した太ももに置いてあった手が拳を作る。しばらく沈黙が続いた後に、船橋はようやく口を開いた。 「…君津先輩と、一緒にいたいって思ったから。いつも優しくしてくれるし、見守ってくれてたから…同じ大学行って天体観測も一緒にしたくて」 だんだんと涙声になる船橋。俺はたまらなくなって船橋の体を掴み、顔を覗く。 「ごめん、やっぱもう一つ聞きたい。俺自惚れていい?先輩としてじゃなくて…その、恋人として隣にいていい?」 船橋はポタポタと涙を落としながらゆっくり頷く。俺はそのまま船橋の体を抱きしめた。
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