◆高校三年の春

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天文部では毎年恒例の二泊三日の合宿があり、夜遅い時間に皆で天体観測をする。合宿といっても半分くらいはキャンプで、バーベキューとかやっているから夏休みの思い出作りの様なもの。バーベキューの段取りをするのは三年生の役目で、成田と俺が仕切っていた。 「君津、肉ここでいい?」 今から焼く肉をドン、と成田がまな板の横に置く。 「ありがと。あとは野菜…って、二年生誰か野菜を持ってきてー」 包丁を持ったまま俺はテントの組み立てに四苦八苦している二年の部員に向けて大声を出すと、はーいと船橋の声がした。しばらくすると野菜の入ったクーラーボックスを走って持ってくる。 「君津先輩、すみません気がつかなくて」 「気にすんな。それよりテント大丈夫かよ」 「多分…なんとかします」 なんとかって…と苦笑いしていると成田が船橋の方に近づく。 「仕方ないなあ。君津ちょい行ってくるわ。任せていい?」 「あ、ああ。頼むわ」 成田と船橋は俺に背を向けてテントを組み立てている方へ向かう。その二人の背中を見ながらまた何だか胸がチクチクしていた。 (なんだよあいつ、いいとこばかりとって) 俺は八つ当たりするかの様に肉をダンダンと包丁で突き刺さした。 その後、出来上がった夕食のバーベキューはなかなか美味しくて、皆大満足でお腹をさすりながら、メインの天体観測の準備を始めた。 持ってきた天体望遠鏡は二つ。複数人で一つの天体観望鏡を使い、星空を観測する。 山の中腹のキャンプ場は、いつもの街より星がたくさん出ていて天気もよく、天体観測日和だ。 天文部合宿あるあるの雨天中止にはならなくて、ホッとした。夏場でも日を跨ぐ時間になると少し肌寒い。カシオペア座など座標を確認しながらしばらく俺たちは宇宙旅行の気分。ああやっぱり天体観測はいいなあ。 そんなことを思いながら望遠鏡から目を離すと成田の横には当然の様に船橋がいて、何が楽しいのか笑顔を向けている。 …俺も船橋の隣で星を数えたいなあ。 そんなことを思っているうちに俺は望遠鏡から離れて近くのベンチに座り、夜空を見ていた。
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