◆高校三年の春

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今まで真剣に考えてこなかったけど、この静かな時間でなら自分の気持ちに素直に向き合える。俺は船橋のことを考えた。どうやら俺は本気で好きになっているようだ。部活の時も、今日も船橋を目で追ってしまう。だから成田と一緒にいるのを見るのが辛い。かと言って船橋に自分の気持ちを伝えようという度胸もないのだ。 あと半年には卒業する。きっと卒業してしまえばこの気持ちも消滅する筈なんだ。だから、我慢するしかない。 俺は星空を仰ぎ見ながら大きなため息をついた。 *** 「成田、推薦で合格なんだって?おめでとう」 一足早く大学生への切符を手にした成田。自販機でジュースを買い、部室で乾杯すると、ありがとうと嬉しそうに微笑んでいた。 成田が選んだ木場大学は天文学専攻があるところだ。以前から狙っていたらしい。俺も行きたかったけど、偏差値が足らなくて、断念した。それでも俺は天文サークルがある舞浜大学を受験することにしている。 「この部室とも、あと少しだな」 教室を見渡しながら成田は感慨深く呟いた。あと一か月もしないうちに俺らは引退するのだ。 「寂しくなるな。…そうだ、次期部長決めたのか?」 うちの天文部では次の部長は、前任者が指名することが決まってきた。まあなんとなく予想はつくけれど。 「船橋にお願いするつもりだ」 ほら、やっぱり。だけど、単に成田のお気に入りだからというだけではなく、他の部員よりしっかりしているし、次期部長として申し分ない。贔屓目ではなく公平な目で見た結果なのだろう。 「そうか、いいんじゃない?」 「うん。そう言えば船橋も、木場大を受験するって言ってたな」 それを聞いて手にしていたジュースを落としそうになった。 「…船橋が?それってお前を追って?」 「はは、そんなわけないだろ。ただの部活の先輩を追っかけていくようなこと。木場大って天文好きなら憧れの大学だろ」 何を言っているんだと成田は一蹴したが、多分船橋は成田が行くから、受験するはずだ。もし船橋が合格したら俺の知らないところで二人はまた仲良くするんだろうか。 気がつけば俺は爪が食い込むくらい、拳を握っていた。
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