◆大学一年の冬から大学二年の夏

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「君津先輩がずっと僕を見ていたこと。成田先輩と話している時も、そうじゃないときも。初めは気のせいかなと思っていたけど、そうじゃないって。君津先輩は僕が成田先輩を好きなのを分かってるのに、それでも僕を見ていてくれた。でも僕はその気持ちを知りながら何も言わずにいました。成田先輩への想いを断ち切って、舞浜大を受験するときも、入学してからもずっと」 ああ、やはり、バレていたのか。でもまさか高校時代からバレていたなんて、気が付かなかった。 「船橋…」 「ごめんなさい。最低ですよね」 「そんなことない」 「直接聞くのが怖かったんです。きっと嫌われると思って。でももう、知らないふりが辛くて」 「辛いだなんて、そんな…」 船橋の手をとる。するとその手が熱いことに気がついた。俺は慌てて、船橋の額に手を当てると熱っぽいことに気がついた。 「おい、船橋。お前熱が出てる」 大きな目が潤んでいるのは涙なのか熱なのか。雨音が聞こえなくなり、船橋の体を横たわらせてテントから外を覗くと雨は上がっていた。雲も切れてきたからもう降らないはずだ。とりあえず撤収しないと。俺はテントの中でぐったりする船橋をもう一度見た。 車に荷物を詰め込み、しんどそうな船橋をほぼ無理矢理動かして車に乗せて、帰路を急いだ。腕時計を見ると午前三時。真夜中に船橋の家に届けるわけにはいかないので、俺の部屋で船橋を寝させることにした。自分の部屋が一階だったことに、我ながら感謝した。 着ていたパーカーなどを着替えさせベッドに船橋を寝かせて、ジェル状の熱を覚ますシートを額に貼ってやる。布団の中へ入ったことで安心したのか、船橋はしばらくすると寝息を立てるようになった。俺はホッとして少し汗ばんでいる顔を拭いてやる。そしてその顔を見ながら、テントの中で船橋の言葉を思い出していた。 『それでも僕を見ていてくれた。でも僕はその気持ちを知りながら何も言わずにいました』 なぜ船橋は俺の気持ちを分かっていながら、離れなかったのだろうか。同じ大学を選び、同じサークルに入って。まるでわざわざ俺を追ってきたような… そこまで考えて、首を振る。いい方に考えすぎだ。でももしかしたら… 目の前の船橋を見ながらキスしたい衝動に駆られる。でもきっとしてしまったら後悔するだろう。 俺は船橋から体を離して、灯りを消す。 「おやすみ」
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