始まりの物語

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「エルメルゥ」 そう猫撫(ねこな)で声で叫びながら、エルメルの父、閻魔が奥から現れた。 「お父さん!」 「会いたかったぞ!」 ギューッ と閻魔がエルメルを抱きしめた。 「私も会いたかったー!お帰りなさーい!」 エルメルも閻魔を抱きしめ返した。 「お父さん…。相変わらず良い響きだ…」 閻魔が歓喜(かんき)(ひた)る。 閻魔の目元も執事と同様に少し潤んだ。 エルメルはそんな閻魔をおいて辺りを見渡して不思議そうな顔をした。 「お母さんは?」 閻魔の顔が少し曇る。 「あぁ、それが、その…、マリーナは仕事が忙しくてな。今月は帰って来れないかも知れない…」 申し訳なさそうにそう告げた。 「すまないな…いつもは戻ってこれたのだが…」 エルメルの顔色を伺いながら謝る。 閻魔は自分の娘ながら、育児は(のちほ)ど執事にやらせているため、エルメルの性格はあまりわかっていなかった。 時々帰ってきて遊んであげるくらいだった。 悔しいが、正直言ってそこらへんの近所のおじさんと同じレベルの付き合いだろう。 -くそ!こんな役職にさえついていなければもっとたくさん娘と過ごせたのに…。 自分を嘆く。 前まではマリーナは仕事が忙しくても帰らせてくれたのだが、今回は量が桁違いなのか、帰ってこれなかった。 初めての経験だ。 怒っているだろうか?泣き出すだろうか?閻魔の頭に不安が飛び交う。。 しかし、それは全くの杞憂だった。 「ううん。大丈夫」 エルメルは全く顔色を変えずに閻魔を許した。 「いいのか?」 こういう時は確認しない方がいいことはわかっていても、つい聞いてしまった。 「ちょっと寂しいけど。でも、お父さんがいるんだもん!」 地獄の娘だが、閻魔に天使の笑顔を見せる。 「エルメル!」 閻魔はエルメルを抱っこして頬を擦り合わせた。 「よし!じゃああっちでケーキでも食べようか。父さん奮発して地獄1番のケーキを買ってきたぞ〜!」 閻魔は手に持っている'ゴクジン'と和風で書かれた紙袋を見せた。 「やったぁー!」 エルメルがさらに笑顔になる。 「じゃあ行こうか!」 閻魔は娘の手を握ってダイニングルームへと向かった。
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