【終章】真恐

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【終章】真恐

企画者である柴咲。 全てを知った上で、結論を出した。 「つまり『コマモリさん』の正体は、殺されて小盛山に埋められた、大勢の子供達の怨霊…と言うことになりますね」 皆んなその他には考えられない。 「そんなもの、到底1人の神主なんかで抑えられるものじゃないわね」 その道に詳しくはないラブ。 しかしその怨念の強さは計り知れないと感じた。 「柴咲さん、それでマンションで何か?」 考えても無駄なことより、事実を優先する。 富士本が掲げる、刑事の基本である。 「管理人は何人か変わっていましたが、一家族だけ当時から住んでいる老夫婦がいました」 そこで少し間をあける柴咲。 富士本とラブ、山本をゆっくり見回す。 (困惑、迷い、恐怖) ラブにはそれが伝わって来た。 (そんなまさか⁉️) 初めて彼女の心を。 「今日ここに来て、集まっていただいた理由は2つ。一つは先ほどの岩崎社長の話しで明らかにできました。これから、もう一つの確認をします」 その物言いに、緊張感が走る。 「その老夫婦の話では、住み始めてからすぐに、住民たちが不思議な話をしていたそうです」 「不思議な話?」 予想はついたが、つい聞き返す山本。 「不意に子供の声が聞こえたり、足音がしたり。時には部屋の中のものが、全く違う場所にあったり、中には子供の霊を見たと言う人も。最初は座敷童(ざしきわらし)だとか言って、良いことだろうと半信半疑だったそうです」 最初は、と言った限り、最後がある。 「しかし、段々とそう言った話が増え、多くの住民が毎晩悪夢に(うな)されていることも分かりました。当時の管理人が、お祓いをして貰おうと、近くの寺からお坊さんを呼んだのですが…」 「駄目だったのか?」 「近くまで来た時に、運悪く交通事故に遭い、死亡してしまったのです。それも一度ではなくニ度も。その情報が周辺のお寺では広まり、三度目は断られたらしいです」 「なんてことに…」 富士本が力無く呟く。 証拠はなくとも、何の仕業かは分かる。 「住人は徐々に減り、幽霊マンションと噂されたそうです。しかし、今から24年前のある事件を境に、そんな異常な現象はピタリと止んだということでした」 「24年前の事件? アイ、」 「あっ、ラブさん資料はここにあります」 アイに呼び掛けるラブを制し、柴咲がカバンから資料を出して広げた。 「24年前、一番異常現象が酷かったマンションで、一家惨殺事件が発生しました。これがそのときの記事です」 何枚かの新聞の写真を見せる。 「被害者は、小川(おがわ) 祐二(ゆうじ)とその妻の瑞枝(みずえ)、長男の(おさむ)の3人」 その頃には、富士本は刑事の職に就いていた。 一旦止め、チラッと彼を見る柴咲。 大きな息を一つして、話を続ける。 「その殺害手口ですが、壁にめり込み頭を潰されていたり、心臓が潰れていたり、窓を突き破って、投げ捨てられた様に30m下のアスファルトへと、大変凄惨なものでした」 「酷いわね。富士本さんは、覚えていますか?」 ラブが敢えて問う。 「あぁ…現場は知らないが、悲惨な事件があったのは覚えている。あれが武蔵村山市で起きたことだったとは、今初めて知って驚いたよ」 それを確認した様に聞いて、柴咲が進める。 「この事件の問題は3つあります。一つ目は、鍵は内側から掛かっていたこと」 「それなら、合鍵を持っていたか、鍵を盗んで見つけにくい様に掛けて逃げたんじゃ?」 と言いながら、矛盾に気付く山本。 「1人はベランダへの窓を突き破って、外で死んでいたのだから、それはない」 案の定、富士本が否定する。 「二つ目は、金品も盗まれておらず、容疑者不明で、未だ犯人が指名手配すらされていないこと」 「未解決事件ってことね」 ラブが富士本を見る。 「ウチには未解決事件特捜部もあるが、所謂(いわゆる)コールド・ケースの数は、この部屋より2倍広い倉庫に、入り切らんほどある」 富士本の所属する、警視庁凶悪犯罪対策本部は、このTERRAに隣接して建てられた30階建てのビルで、各部署のスペシャリストを集めている。 未解決事件の捜査は非常に難しく、地味ではあるが、強い根気と注意力が必要なものである。 「日本の殺人の様な凶悪犯罪は、年間約5000件。その内で解決に至ったものは、約4500件。残りの500件、約10%が未解決事件です」 「ありがとうアイ。年が経つに連れて解決は難しくなり、その間にも新しい事件が次々と起こり、どうしても優先されてしまう。一度コールド・ケース入りすると、富士本さんの特捜部でさえ、解決できるのは極一部」 「情けないことですが、圧倒的に追加される件数が多い状況です」 「富士本さん、検挙率90%は、世界ではダントツ1位であり、日本の警察や社会はシッカリ機能できていると思います」 ラブが富士本を補佐した。 その気遣いに、軽く頭を下げてる富士本。 しかしその面持ちは、明らかに陰鬱であった。
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