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その頃、隣の3年B組。
在席を確認する担任の江原。
病欠の1人の他に、もう一つ空いた席に気付く。
「そこは…小日向 智代さんね。どうしたのか知ってる人はいる?」
体育館にいたのは確認していた。
成績は良いが、内気で暗く、存在感の薄い彼女。
「また帰ったんじゃないですか〜」
「今朝いたっけ?」
「さぁ…興味ないから見てないわ」
あからさまに、嫌われているのが分かる。
江原自身も、あまり話すことはなかった。
「今朝はちゃんといたわよ、体育館に。おかしいわね、皆んなは大人しく自習しててよ」
前にも無断で帰宅したことは、何回かあった。
念のため、保健室に寄ってみる。
「あ、江原先生、丁度良かったわ。あなたのクラスの小日向さんが、体育館の外でうずくまっていたので、とりあえず連れて来てました」
「そうでしたか、いつもすみません」
「まさか、担任のあなたが知らなかったなんて言わないわよね? …まぁいいけど、熱もないし連れて行ってくださいな。さっきの話を聞いて、気分が悪くなった子もいて、忙しいのよ」
3つあるベッドには、3人の女子がいた。
その内1人は、毛布に包まって震えている。
「お手数をおかけしました。失礼します」
丁重に頭を下げ、小日向を連れて出て行く江原。
あの震えてた子が気にはなった。
「先生…ごめんなさい」
ボソボソと呟く小さな声。
それが江原の気持ちを逆撫でする。
「全く小日向さんには困ったものね!何度迷惑掛けたら気が済むの! いい加減にしなさい❗️」
養護教諭の免許を持つ、保健室の関口 麻優。
年下の彼女に嫌味を言われ、頭を下げる屈辱感。
それも決まって、小日向によるものであった。
「ごめんなさい…私…怖くなって…」
「そう…死んだ橋田さんとは、幼馴染だったわね。
あなたにも話を聞きたいので、一緒に来なさい」
そう言われた瞬間。
体育館にいた警官の姿が頭に浮かんだ。
「わ…私は何も知らない。…話すこともないし、優樹菜なんか、思い出したくもない❗️」
思いも掛けず強い口調に、驚く江原。
こんなに怯え切った彼女も、初めて目にした。
「な…何もない筈はないでしょ? だって…」
良家に生まれた橋田優樹菜。
母は風俗嬢で、父親不明の小日向智代。
幼馴染と言えば聞こえは良いが、実態は侍従関係にあり、奴隷と言うのが相応しいことは、学校中が知っていたのである。
「今は話したくない…教室に戻ります!」
「こらっ小日向さん、待ちなさい!」
そんな声に効果はなく、走り去って行った。
それ以上は追わない江原。
彼女とて、歴とした教師である。
そんな状況を良くは思わず、着任時は抗議した。
しかし、教育委員会の委員長を務める橋田の母。
そして、多額の寄付を受け取っている手前、学校側にそれを戒める力は無かった。
(仕方ない…か。警察には話すのだろうか…)
学校側が、自らその問題を話す訳はない。
自分もそれに従うしかないと思っていた。
罪悪感は感じても、彼女の死には無関係なこと。
そう自分に言い聞かせて、職員室へ向かった。
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