【3】都市伝説

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皆んなの目を見て、山崎誠が始めた。 「時は平安時代末期にまで遡ります。その頃、江戸の歴史では有名な武士団『村山七党(むらやましちとう)』がいて、その一つである『村山党』が、現在の武蔵村山市辺りを治めていました。やがて江戸幕府は、反抗する村山党を力で制圧。主たる者達を打首の刑に処し、子孫の復讐を防ぐべく、全ての子供達を抹殺したのです」 「そんな⁉️ いくら戦国の世だとしても、そこまで残忍な処分をするなんて、酷すぎるわ❗️」 話させておきながら、子を持つ柴咲が口を挟む。 その握りしめた拳に、山本がそっと手を添える。 「確かに。しかし現代の平和な日本にいる私達には、当時の政権の在り方を理解することは、到底出来るものではありません」 穏やかな声で、諭す様に話す岩崎。 「まさか、その遺体を?」 話が見えてきたラブが呟く。 全員が、そのあり得ない光景を想像した。 「国からの依頼で、小盛山を新地(さらち)に開拓した際、大量の人骨が見つかりました。記録では数体とありますが…父の話では数百体だったとのことです」 「そんなに…まさかその骨も一緒に、東京湾の埋め立てに使ったの?」 想像しただけで恐ろしい事実。 その処理が気になる。 「いえ、さすがに作業員も恐れ、掘り出して運ぶなどできません。それだけ大量だったのでしょう。政府の指示は、元々そこにしてあったものだから、そのまま埋めて口外は厳禁。作業員には多額の口止め料が支払われました」 「じゃあ今もあの土地の下に⁉️」 富士本が声を荒げる。 怒りのせいか、テーブルに置いた拳が震える。 (怒り…いや、怯えか?) 読心能力を持つラブは、普段仲間は覗かない。 それでも彼の強い心理を感じた。 黙ってうなずく岩崎。 「当然ながら、我が社にも多額のお金が積まれたが、父は断固として受け取りませんでした。そして整地した後で、供養の為に小さな慰霊碑を片隅に設置したのです」 「それなら見たわ。私は取材のために、そこのマンションを訪ねたの。慰霊碑とは書かれてなかったけど、この地に住む人の繁栄と安全祈念の言葉が書かれていました。まさか慰霊碑だったとは」 それぞれの、複雑な心境がラブに伝わる。 彼女自身、それが正しいかは疑問であった。 「開拓地から人骨が見つかることは、よくあることです。昔の墓や(いく)さや戦争、自然災害。私達が普段生活しているこの東京や、日本各地の土地の下には、沢山の者が埋まっているのです」 そう考えれば、そのいきさつや数の違いはあれど、ある意味正当に考えられた。 皆んな知らないだけのこと。 「公表を禁止するのは、隠蔽(いんぺい)ではなく、今そこに住んでいる大勢の人のためです。こういった行政上の機密資料は、機密期間を過ぎたら、国立公文書館へ移管又は廃棄される様、行政文書管理規則などで決められています」 「それは知っていて、私は千代田区にある東京国立公文書館へ探しに行きましたが、それらしいものは見つかりませんでした」 柴咲は約1ヶ月間、あらゆる図書館や歴史館を調べ尽くしたのである。 「公表が人の生活に大きく影響するものは、恐らく今も、内閣府の資料保管庫にあると思います」 岩崎の役目はそこまでである。 山吹美咲にだけは話すことを承諾し、最後に念を押して部屋を出て行った。 残った4人は、その(おぞ)ましくも痛ましい歴史を知り、暫くは思いを巡らし整理した。
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