【終章】真恐

2/3
133人が本棚に入れています
本棚に追加
/24ページ
全ての事件には、かつて時効期間があり、それがコールド・ケース消滅の最大の手段であった。 しかし現在は、凶悪犯罪の時効は撤廃され、未解決事件は、その目処もなく溜まり続けている。 「三つ目が…」 躊躇(ためら)いながらも柴咲が続けた。 「その殺人事件に、生存者がいたと言うこと」 「では、その人物が犯人でしょ?」 短絡的に考えれば、当然容疑者となる。 しかし… 「それはあり得ないんです」 山本の主張を、あっさり否定した。 そこで富士本が、静かに口を開いた。 「生存者はまだ幼い少女だった。とてもそんな殺害ができる筈がない。それから…その少女の体には、無数の傷や(あざ)があった」 「家庭内の幼児虐待…その事実と場所、人間(わざ)とは思えない殺害方法から見て、()ったのは『コマモリさん』と言いたいのね?」 ラブの問いにうなずく柴咲。 「更に調べて驚いたのは、その事件を担当した刑事は、先に話した『コマモリさん』を調査していたもう1人の刑事だと言うことです」 「柴咲さん、一体誰なのその刑事は? 先の話でも、山吹刑事しか名前を呼んでいないわよね?」 それが気になっていたラブと富士本。 そう言えば…と気付く山本。 「その刑事は…姫城(ひめしろ) 正明(まさあき)。そしてその少女は、小川…紗夜(さや)」 富士本は、その名ではないことを祈っていた。 ラブは、柴咲の心にそれをいた。 「紗夜…って、まさか?」 考えてもいなかった山本。 「姫城刑事には、若い頃大変お世話になった。手本となる素晴らしい刑事でした」 過去形で話す富士本。 「姫城刑事は、身寄りのない紗夜さんを引き取り、娘として育てようとしました。そしてその子を連れて出掛けたコンビニで、不運にも3人の不良に出会った。煙草を注意したことから争いになり、逆に殺されてしまいました」 柴咲が、当時の記事を見せる。 「紗夜が、視力を失うきっかけになった事件だ。その後、正気を失った姫城刑事の妻は、マンションから投身自殺。その現場を担当したのは私だ」 この場に柴咲が、このメンバーを集めた理由。 それは、現在富士本の刑事課にいる心理捜査官、宮本紗夜に繋がっていたからであった。 「私は姫城刑事と同じ様に、紗夜を預かって育てました。姫城刑事の事件以降は目は見えず、ただ…子供の頃から読心能力があることに気付いた。成長するに連れ、私の影響からか、警察官の職を希望し、心理捜査の盛んなアメリカに渡って心理捜査官として働き、ご存知の通り帰国後は現在も私の(もと)にいます」 まだ富士本を見ている柴咲。 その目を見て追言した。 「富士本さん、姫城刑事の妻の智代(ともよ)さんは、投身自殺となってはいます。しかし…不審な点がありましたよね?」 辛そうな表情で柴咲を見る。 「遺体の位置は、投身自殺にしては建物から離れていて、走って跳ばない限り有り得ません」 「マンションの部屋ではなく、屋上からでは?」 その可能性を問う山本に、屋上の写真を見せる。 当然柴咲も考え、自ら屋上へ行き確認していた。 「屋上は、高さ1.2mの塀で囲まれていました」 柴咲は、紗夜の秘密をどの程度知っているのか? 彼女の悩みの中心にいるのは、明らかに紗夜。 過去の関わりを回想しても、ハッキリしない。 その心理を確認し、ラブが論点を話し出す。 「つまり柴咲さんは、全て紗夜の右手に棲む…が殺したと」 「そんなこと⁉️」 山本が即座に否定の声を上げる。 「そして」 無視して続けるラブ。 「アレは…あの紗夜に宿ったは、幼児虐待が生んだ悪魔なんかではなく、アレこそが、姫城刑事と山吹刑事が探し求めていた『コマモリさん』だと。大昔に殺されて、或いは生きたまま埋められた、数百体の子供達。その恨みが生み出した、怨霊だと言いたいのね?」 余りに予想外の話。 紗夜を理解していたはずの富士本。 その全てが今、(くつがえ)されたのである。 「その通りです」 心を読んで見ろとばかりに、ラブの目を見る。 「柴咲さん❗️」 慌てて山本が叫んだ。 「紗夜さんを虐待していた家族が殺害され、姫城刑事が彼女を引き取ってから、武蔵村山市のマンションの不可解な出来事も、住民の悪夢も無くなりました。絶対に偶然なんかじゃない!」 非現実的なオカルトだが、起きていた事実。 それが一つの凄惨な事件から、現実的に消えた。 もう、疑う余地はない真実。 それを認めざるを得ない富士本。 「もし…それが事実なら姫城刑事は、探し求めていたヤツに…出会っていた。いや、それどころか、自分の家族に迎え入れていたと言うことか! 何という皮肉な巡り合わせ…」 「富士本さん、姫城刑事は小盛山が無くなって、諦めてたとは思えません。住民の安全を危惧し、起きていることは知っていたはず。そこに余りにも不可解な一家惨殺事件。彼は、紗夜がだと知って、そこから連れ出したのだと思います」 ラブが柴咲の考えを肯定し、更に姫城の考えをも見抜いた。 「姫城刑事は知っていたと言うのか?」 「彼は、そういう方でしょ?」 柴咲から聞いた、40年前の話。 彼ならそれを理解し、そうしたと思えた。
/24ページ

最初のコメントを投稿しよう!