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全ての事件には、かつて時効期間があり、それがコールド・ケース消滅の最大の手段であった。
しかし現在は、凶悪犯罪の時効は撤廃され、未解決事件は、その目処もなく溜まり続けている。
「三つ目が…」
躊躇いながらも柴咲が続けた。
「その殺人事件に、生存者がいたと言うこと」
「では、その人物が犯人でしょ?」
短絡的に考えれば、当然容疑者となる。
しかし…
「それはあり得ないんです」
山本の主張を、あっさり否定した。
そこで富士本が、静かに口を開いた。
「生存者はまだ幼い少女だった。とてもそんな殺害ができる筈がない。それから…その少女の体には、無数の傷や痣があった」
「家庭内の幼児虐待…その事実と場所、人間業とは思えない殺害方法から見て、殺ったのは『コマモリさん』と言いたいのね?」
ラブの問いにうなずく柴咲。
「更に調べて驚いたのは、その事件を担当した刑事は、先に話した『コマモリさん』を調査していたもう1人の刑事だと言うことです」
「柴咲さん、一体誰なのその刑事は? 先の話でも、山吹刑事しか名前を呼んでいないわよね?」
それが気になっていたラブと富士本。
そう言えば…と気付く山本。
「その刑事は…姫城 正明。そしてその少女は、小川…紗夜」
富士本は、その名ではないことを祈っていた。
ラブは、柴咲の心にそれを視ていた。
「紗夜…って、まさか?」
考えてもいなかった山本。
「姫城刑事には、若い頃大変お世話になった。手本となる素晴らしい刑事でした」
過去形で話す富士本。
「姫城刑事は、身寄りのない紗夜さんを引き取り、娘として育てようとしました。そしてその子を連れて出掛けたコンビニで、不運にも3人の不良に出会った。煙草を注意したことから争いになり、逆に殺されてしまいました」
柴咲が、当時の記事を見せる。
「紗夜が、視力を失うきっかけになった事件だ。その後、正気を失った姫城刑事の妻は、マンションから投身自殺。その現場を担当したのは私だ」
この場に柴咲が、このメンバーを集めた理由。
それは、現在富士本の刑事課にいる心理捜査官、宮本紗夜に繋がっていたからであった。
「私は姫城刑事と同じ様に、紗夜を預かって育てました。姫城刑事の事件以降は目は見えず、ただ…子供の頃から読心能力があることに気付いた。成長するに連れ、私の影響からか、警察官の職を希望し、心理捜査の盛んなアメリカに渡って心理捜査官として働き、ご存知の通り帰国後は現在も私の下にいます」
まだ富士本を見ている柴咲。
その目を見て追言した。
「富士本さん、姫城刑事の妻の智代さんは、投身自殺となってはいます。しかし…不審な点がありましたよね?」
辛そうな表情で柴咲を見る。
「遺体の位置は、投身自殺にしては建物から離れていて、走って跳ばない限り有り得ません」
「マンションの部屋ではなく、屋上からでは?」
その可能性を問う山本に、屋上の写真を見せる。
当然柴咲も考え、自ら屋上へ行き確認していた。
「屋上は、高さ1.2mの塀で囲まれていました」
柴咲は、紗夜の秘密をどの程度知っているのか?
彼女の悩みの中心にいるのは、明らかに紗夜。
過去の関わりを回想しても、ハッキリしない。
その心理を確認し、ラブが論点を話し出す。
「つまり柴咲さんは、全て紗夜の右手に棲むモノ…が殺したと」
「そんなこと⁉️」
山本が即座に否定の声を上げる。
「そして」
無視して続けるラブ。
「アレは…あの紗夜に宿ったモノは、幼児虐待が生んだ悪魔なんかではなく、アレこそが、姫城刑事と山吹刑事が探し求めていた『コマモリさん』だと。大昔に殺されて、或いは生きたまま埋められた、数百体の子供達。その恨みが生み出した、怨霊だと言いたいのね?」
余りに予想外の話。
紗夜を理解していたはずの富士本。
その全てが今、覆されたのである。
「その通りです」
心を読んで見ろとばかりに、ラブの目を見る。
「柴咲さん❗️」
慌てて山本が叫んだ。
「紗夜さんを虐待していた家族が殺害され、姫城刑事が彼女を引き取ってから、武蔵村山市のマンションの不可解な出来事も、住民の悪夢も無くなりました。絶対に偶然なんかじゃない!」
非現実的なオカルトだが、起きていた事実。
それが一つの凄惨な事件から、現実的に消えた。
もう、疑う余地はない真実。
それを認めざるを得ない富士本。
「もし…それが事実なら姫城刑事は、探し求めていたヤツに…出会っていた。いや、それどころか、自分の家族に迎え入れていたと言うことか! 何という皮肉な巡り合わせ…」
「富士本さん、姫城刑事は小盛山が無くなって、諦めてたとは思えません。住民の安全を危惧し、起きていることは知っていたはず。そこに余りにも不可解な一家惨殺事件。彼は、紗夜がアレだと知って、そこから連れ出したのだと思います」
ラブが柴咲の考えを肯定し、更に姫城の考えをも見抜いた。
「姫城刑事は知っていたと言うのか?」
「彼は、そういう方でしょ?」
柴咲から聞いた、40年前の話。
彼ならそれを理解し、そうしたと思えた。
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