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〜3年B組〜
自習など、真面目にできる事態ではない。
A組からも数人が押し掛けて来ていた。
その中心に腰掛けている、小日向智代。
鞄を持って帰るつもりであったが、周りの生徒達が、それを許さなかった。
「おいコビッチ、優樹菜さんに何をした⁉️」
「薬か?それとも藁人形か?」
「藁人形アルアルじゃん、コビッチならやりそ」
1人が言うと、次々と言葉の暴力が襲い掛かる。
震えながらうつむいて、黙って耐える。
コビッチは、小日向智代の小日と智代のチに、女性への罵り言葉であるbitchを掛け合わせ、橋田優樹菜が付けたあだ名である。
「バンッ❗️」
1人が両手で机に拳を振り下ろした。
ビクッ! とした小日向に寄り、顔を睨み上げる。
「何をしたか吐けっつってんだろー❗️」
さすがに我慢にも限界がある。
実際、1番驚いているのは小日向であった。
「私は…まさか本当に死ぬなんて…」
「やっぱ何かやったんだな、話せ!」
震える唇が、その名を口にした。
「コ…マ…モ…リ…さん」
「はぁ?…何だってぇ⁇」
〜保健室〜
時を同じくして…
「えっ?…何それ⁇」
関口麻友が訊き返していた。
毛布に包まって震えていた、村山 光莉。
余りにも異常と思い、問い質したのである。
「確か村山さんのお家は、代々この地にある神社の神主さんの家系だったわよね?」
無言で小さくうなずく。
「光莉さんって名前も、奥ゆかしいわね」
そんな身近で、自分についての関心ごとに、徐々に落ち着きを取り戻し、話を始めた。
「私…亡くなった橋田さんや皆んなに、まるで奴隷の様に扱われている、小日向先輩を見ていられなくて…つい話し掛けてしまったんです」
小日向智代のことは、新任とは言え、保健室の常連客であり、直ぐに気が付いていた。
「彼女…小日向さんは何て?」
「自分が耐えているのは、優樹菜のためだと…。優秀な優樹菜は、立派な社会人になり、世の中のためになる人だからって」
「はぁ? そんな自己犠牲を彼女が?」
「最初はそうなんだと、崇高な行いかと、自分を悟そうとしました。でも唇を噛み締め、拳を震わせているのを見て、違うと悟りました」
さすが、神主の家柄。
感じ方も言葉も、奥ゆかしいと感心した。
「そんな他人に、ましてや幼馴染に犠牲を払わせる者が、世のために生きられるはずはない。そんな資格すら持たない外道を、このまま許すのは間違っています」
諭されている気分になる関口。
「逆に、小日向さんの様な、誰かのために自分を犠牲にできる尊さを知る者こそ、人を導くべきなんだと思います」
「確かに。いいこと言うわね。つまりは、小日向さんの様な人こそ相応しい…と」
「違います」
「えっ? だって今さっき…」
「私は、そう言う尊さを知る者と言いました。自己犠牲にも様々なものがあります。彼女みたいに間違った行いに自分を捨てる者は弱く、世に相応しくありません。それに実際のところ小日向さんは、心の底でそんな自分のことに気付かず、優樹菜さんを憎み、恨んでいました」
「それで、何を話したの?」
「私の家系に、代々伝わる忌わしい呪い」
「の…呪い?」
予想外だが、彼女が言うと現実味がある。
「小盛山に、強い恨みを抱く子供にだけ現れる小さな神社があり、怨みの念を伝えると、その相手に天罰が下ると言うものです」
「小盛山って、江戸時代に作られた盛り土の山…だったわよね? それって都市伝説的なやつ?」
「いえ、本当のことだと聞かされています。だから私の家は、あの山を神聖な地として、開拓から守って来ました。それに実際…橋田さんは…」
「ちょっと待って! じゃあ、あなたが小日向さんに、その呪い方を教えて彼女が実行し、橋田さんが亡くなったって言うの? あり得ないでしょ!」
また酷く震え出す村山。
「まさか…私も本当だとは…しかも死ぬなんて」
「分かったから落ち着いて。でも、山が恨みを晴らすわけじゃないでしょ? 一体何が…居るの?」
沈黙を待つ関口。
すると、小さな声で呟いた。
「コ・マ・モ・リ・さん」
「えっ?…何それ⁇」
訊き返しながら、背筋を冷たいものが走った。
「でも…そのことは誰にも話しちゃいけない。もし話したら、代償として…命を喰われる」
余りに突拍子もない話。
しかし、橋田と小日向の関係は事実。
恨んでいても当然のこと。
そして、実際に橋田優樹菜は死んだ。
その死に様を知れば、関口は確信した筈である。
その時。
「ギャァアアー❗️」
凄まじい悲鳴が、校内に響き渡った。
そしてその瞬間。
生徒数は209名へ…
また1人減ったのである。
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