【1】約束の代償

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〜3年B組〜 自習など、真面目にできる事態ではない。 A組からも数人が押し掛けて来ていた。 その中心に腰掛けている、小日向智代。 鞄を持って帰るつもりであったが、周りの生徒達が、それを許さなかった。 「おいコビッチ、優樹菜さんに何をした⁉️」 「薬か?それとも藁人形か?」 「藁人形アルアルじゃん、コビッチならやりそ」 1人が言うと、次々と言葉の暴力が襲い掛かる。 震えながらうつむいて、黙って耐える。 コビッチは、小日向智代の小日(コビ)と智代のチに、女性への(ののし)り言葉であるbitch(ビッチ)を掛け合わせ、橋田優樹菜が付けたあだ名である。 「バンッ❗️」 1人が両手で机に拳を振り下ろした。 ビクッ! とした小日向に寄り、顔を睨み上げる。 「何をしたか吐けっつってんだろー❗️」 さすがに我慢にも限界がある。 実際、1番驚いているのは小日向であった。 「私は…まさか本当に死ぬなんて…」 「やっぱ何かやったんだな、話せ!」 震える唇が、その名を口にした。 「コ…マ…モ…リ…さん」 「はぁ?…何だってぇ⁇」 〜保健室〜 時を同じくして… 「えっ?…何それ⁇」 関口麻友が訊き返していた。 毛布に(くる)まって震えていた、村山(むらやま) 光莉(ひかり)。 余りにも異常と思い、問い(ただ)したのである。 「確か村山さんのお家は、代々この地にある神社の神主さんの家系だったわよね?」 無言で小さくうなずく。 「光莉(ひかり)さんって名前も、奥ゆかしいわね」 そんな身近で、自分についての関心ごとに、徐々に落ち着きを取り戻し、話を始めた。 「私…亡くなった橋田さんや皆んなに、まるで奴隷の様に扱われている、小日向先輩を見ていられなくて…つい話し掛けてしまったんです」 小日向智代のことは、新任とは言え、保健室(ここ)の常連客であり、直ぐに気が付いていた。 「彼女…小日向さんは何て?」 「自分が耐えているのは、優樹菜のためだと…。優秀な優樹菜は、立派な社会人になり、世の中のためになる人だからって」 「はぁ? そんな自己犠牲を彼女が?」 「最初はそうなんだと、崇高な行いかと、自分を悟そうとしました。でも唇を噛み締め、拳を震わせているのを見て、違うと悟りました」 さすが、神主の家柄。 感じ方も言葉も、奥ゆかしいと感心した。 「そんな他人に、ましてや幼馴染に犠牲を払わせる者が、世のために生きられるはずはない。そんな資格すら持たない外道(げどう)を、このまま許すのは間違っています」 諭されている気分になる関口。 「逆に、小日向さんの様な、誰かのために自分を犠牲にできる尊さを知る者こそ、人を導くべきなんだと思います」 「確かに。いいこと言うわね。つまりは、小日向さんの様な人こそ相応しい…と」 「違います」 「えっ? だって今さっき…」 「私は、そう言う尊さを知る者と言いました。自己犠牲にも様々なものがあります。彼女みたいに間違った行いに自分を捨てる者は弱く、世に相応しくありません。それに実際のところ小日向さんは、心の底でそんな自分のことに気付かず、優樹菜さんを憎み、恨んでいました」 「それで、何を話したの?」 「私の家系に、代々伝わる忌わしい呪い」 「の…呪い?」 予想外だが、彼女が言うと現実味がある。 「小盛山(こもりやま)に、強い恨みを抱く子供にだけ現れる小さな神社があり、怨みの念を伝えると、その相手に天罰が下ると言うものです」 「小盛山って、江戸時代に作られた盛り土の山…だったわよね? それって都市伝説的なやつ?」 「いえ、本当のことだと聞かされています。だから私の家は、あの山を神聖な地として、開拓から守って来ました。それに実際…橋田さんは…」 「ちょっと待って! じゃあ、あなたが小日向さんに、その呪い方を教えて彼女が実行し、橋田さんが亡くなったって言うの? あり得ないでしょ!」 また酷く震え出す村山。 「まさか…私も本当だとは…しかも死ぬなんて」 「分かったから落ち着いて。でも、山が恨みを晴らすわけじゃないでしょ? 一体何が…?」 沈黙を待つ関口。 すると、小さな声で呟いた。 「コ・マ・モ・リ・さん」 「えっ?…何それ⁇」 訊き返しながら、背筋を冷たいものが走った。 「でも…そのことは誰にも話しちゃいけない。もし話したら、代償として…命を喰われる」 余りに突拍子もない話。 しかし、橋田と小日向の関係は事実。 恨んでいても当然のこと。 そして、実際に橋田優樹菜は死んだ。 その死に様を知れば、関口は確信した筈である。 その時。 「ギャァアアー❗️」 凄まじい悲鳴が、校内に響き渡った。 そしてその瞬間。 生徒数は209名へ… また1人減ったのである。
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