第1夢 青

1/2
前へ
/78ページ
次へ

第1夢 青

ある日の学校の帰り道。 その日も(ゆう)は一人で歩いていた。 彼女は11歳の普通の少女である。 ちょっとほかの子と違うというのなら、それは冷静でどこか落ち着いているという個性だろうか。 涼しい顔立ちではあるが、本当は名前の通り優しい子である。 ただ少し人づき合いは苦手なようで、こうして通学路を一人で通ることは、彼女にとっていつもの日常であった。 「…!」 ふと、視界の端にあるものが映り、優は思わず足を止めた。 「あ…」 カラスである。 そこには一羽のカラスが電柱の天辺にいて、羽を休めているようであった。 しかし、そのカラスを普通と呼ぶには、どうも違和感があった。 それはいつも町の空を飛びまわっている黒いカラスとは違い、その羽色は青一色である。 その美しい青の身体と異色の存在感に、優は思わず声をもらす。青いカラスからしばらく目が離せなくなっていた。 するとその視線に気づいたかのように、青いカラスの首が優のほうへと向けられた。 羽色と同じ青い瞳に優の姿を映したまま、カラスはじっとして動かない。 カラスと少女。 両者のしばらくの静かな見つめ合いの末、先に視線をそらしたのはカラスのほうであった。 ふい、と優から顔をそむけると、そのまま羽を広げて飛び立った。 「!あ、待って…っ」 その様子に、優はあわてて駆けだした。 カラスの後を追って走り出す。 なぜそんなことをするのか?正直自分でもわからないまま、優は空を舞う青を無心になって追いかける。 青いカラスは一声鳴くと、高度を上げた。 蝶のようにふわりと飛んでいるが、優にとっては今にも変わりそうな信号機を急いで渡りきる程だ。 ただなんとなく、目の前のカラスが向かう先が気になったから――。 それだけのことなのに、優の足はもはや無意識に商店街を抜け、住宅地を抜け、路地を抜けていく。 そうやってだんだんと人気のない、辺りが不可思議な空気へと変わっていくのに、彼女は気づいていなかった。
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加