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「あれ…?」
そして、気づいた時には遅かった。
優の目の前には、いつの間にか大きな朱色の鳥居。
それも一つだけではなく、一定の間隔で立ち並んでいるそれはトンネルのようである。
後ろをふり返ると、そこにも鳥居があり、静かに彼女を見下ろしていた。
こんなもの、先程まであっただろうか――?
不審に思いながら優は辺りを見渡せば、朝もやがかかったように、うっすらと霧がかっていて見えにくい。
そして鳥居があるのに近くに神社があるわけでもない。優が人の気配の一切ない奇妙な場所で立ち止まっていると、どこかでだれかの声が響いた。
「驚いた。まさかここまで着いてくるとは…」
優が声のしたほうへと目を向ける。
霧でぼやけた視界に目を凝らすと、朱色の鳥居の天辺に、ぽつりと小さな影が一つ。
それは先程まで自分が追いかけてきた、あの美しい青がそこにあったのだ。
優はハッとし、息をのんだ。
カラスが、しゃべった――?
そんな驚きをもらす代わりに、優はカラスを見つめたまま目を大きく見開いていた。
「まあいい。いや、良くはないが…。しかし来てしまったものは仕方ない。行きは私が誘いこんでしまったとして、帰りは……
悪いが帰り道は自分で探すんだな、お嬢さん」
青いカラスは一瞬なにかを考えこむようにしてそう言った。そして優を見下ろすと再び飛び立った。
「それと」
鳥居の上を泳ぐように通過すると、青いカラスはたちまち霧の向こうへと消えていった。
「くれぐれも、主には気をつけろよ…」
青い身体が完全に霧で見えなくなる前、カラスがぼそりとつぶやく。
しかし、優の耳には届いてはいなかった。
その場に一人残された優は、いよいよ途方に暮れてしまった。
優は目の前の鳥居を見つめていたが、そっと目を閉じて静かに佇んでみる。
しばらくそのままでいた後、再び目を開けてみたが、やはり景色は変わってはいなかった。
「……」
夢じゃない。
そう確信したのだ。
帰り道は自分で探せと言われたが、どうやらあのカラスの言葉に従うしかなさそうである。
こんな気味の悪い場所からは早く立ち去りたいものだ。優は意を決して鳥居をくぐると歩き出した。
暗くならないうちに家に帰らなければ…。
そんな風に、その時の彼女はその程度にしか考えていなかったのだ。
ココはすでに、自分が知る世界ではないということ。
鳥居の先は、すでに「入り口」であるということ。
そして、帰り道を自分で探すということが、決して容易なことなんかじゃないということ……。
いつもの学校の帰り道は、踏み入れてはならない世界への寄り道だったようだ。
そんなこと、優はまだ知る由もなかったのである。
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