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やはりだれもいない。
だが建物の死角にはだれかが隠れているような、そんな気配があった。
ひっそりと物陰に佇むような、何者かの影がぼんやりと地面に映っていたのだ。
気味が悪くなった優はいよいよ走り出そうと、曲がり角にさしかかった時だった。
「――うわっと…っ!」
出会いがしらに何かとぶつかったのだ。
「…っ!」
その反動で優は後ろに転んだ。
いったい何とぶつかったのか。正体を知るべく、優はすぐに顔を上げる。
すると、そこには何とも奇妙なものがいたのだ。
優と同様、尻もちをつき痛そうに腰をさすっていたのは、着ぐるみを着た子供のようであった。
いや、子供かどうかは不明である。だがまるで着ぐるみを身にまとったような、奇妙な格好が印象的な、人――?であった。
「うー、痛って…。ん?あ…、みーっけっ!」
そう言って目の前の優を見るなり、正体不明のそれは嬉しそうに立ち上がった。
「はい?」
「いやー、よかった。人がいたか。おいら、迷っちまってな…。他にだれかいないか、ずっと探してたんだ」
優はぽかんと口を半開きにしたまま固まっていた。
まさに予想外の出会い――。
こんな怪しくておかしな恰好をした人物がいきなり目の前に現れるなんて、だれが予想できたであろうか?
しかしそんな優をよそに、子供のようなそれはいたってふつうにマイペースにしゃべっている。
その姿をよく見れば、遊園地のマスコットキャラクターのような、なんともクリーチャーなものである。
背丈は優よりは低く、外見からは年齢はおろか性別すらわからなかった。
「え?もしかして…、あなたも迷ったんですか?」
そんな彼?の言葉に、優は困惑を忘れて問いかけた。
もしかしたら自分と同じ境遇の者かもしれないと、そんな期待が少しだけ湧いたからだ。
「おう。おいら、気づいたらここにいて…。
帰り道を探してぐるぐるさまよってたんだけど…。そしたら、同じようなやつがいるから探して合流するといいって、青ガラスに言われたんだぞ」
「え…、青ガラス?」
その言葉に優は反応する。
青ガラスといえば、すごく心あたりがあった。
先ほどまで自分が意味もなく追いかけていた、この奇妙な場所へ迷い込むことになったきっかけなのだから。
(あのカラスのことかな?)
「なぁ、お前、名前は?」
優は鳥居の空間で自分に話しかけてきた、あの青いカラスを思い出す。
すると着ぐるみの彼はじぃっと優を見つめてそう言った。
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