第2夢 未知との遭遇

3/4
前へ
/78ページ
次へ
「え…、優です」 「ユウか、ふーん…。なぁなぁ、おいらと一緒に行動しないか?」 「――え?」 きょとんとする優に、着ぐるみの彼はお構いなしに続ける。 「察するに、お前もここに迷い込んだんだろ?んで、出口がわからず困ってる。おいらもだ。 なら一緒に帰り道を探すのがいいんじゃねーか?一人より二人ってもんだろ」 そう言って着ぐるみの彼は二カッと笑った。 その表情は人懐っこいもので、戸惑っていた優の気持ちを少しだけ和らげた。 「…そうですね、そうしましょう」 優は素直にうなずくと立ち上がる。そして、彼と向き合うと言った。 「あの…、あなたは何ていうんですか?」 「え、おいら?」 立ち上がった優をやや見上げるようにして、今度は彼がきょとんとする。 「名前です。これから一緒に行動するなら、ちゃんと名前を知っておきたいので」 「……なまえ、かぁ」 優の質問に、なぜか彼は言葉を詰まらせた。 ふつうならすぐに答えられる質問だろうに。そう優は不思議に思いつつその様子を見つめた。 「あー、悪い…、おいら自分の名前、その…、わかんなくてな。忘れちまったんだ」 「え?」 予想外の返事に、優は目を丸くする。 自分の名前を忘れるなんてこと、あるんだろうか。 「それって、記憶喪失みたいなものですか…?」 「うーん…、うん、まぁ、そんなとこかな?なんで名前は好きなように呼んでいいぞ」 戸惑う優とは反対に、じつにしれっとした様子で彼は言った。 「え、そう言われても…。好きなようにって…」 そう返され、優は困ったようにつぶやいた。 なんとなく事情を含んだ彼の様子もだが、加えて名前のない初対面の相手など、どう接したらいいのかわからなかったからだ。 「なんだよ、テキトーでいいのに」 お固いなぁ、と少しめんどくさそうに彼は優を見つめる。 すると何か思いついたかのように、そうだ!と一人つぶやいた。 「ならさユウ、おいらに名前くれよ!」 「……はい?」 一瞬の沈黙。優は意味がわからないという顔をする。 「名前だよ!な・ま・え…っ!おいらのことどう呼んでいいのかわかんないんだろ? ならユウが自分で考えりゃいいじゃん。そうすりゃお前も戸惑うことないし、おいらも名前ができる」 「えぇ…っ」 急にそう言われ、優はますます困惑する。たしかに彼の言うことは一理あった。 自分が正式に名前をつけてしまえば、名付け親として戸惑うことはないのかもしれない。
/78ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加