3人が本棚に入れています
本棚に追加
「はぁ…、わかりました」
ため息をつくと、優はしぶしぶうなずいた。そして彼の奇妙な姿を見つめると考える。
その身体はというと、ところどころが色の違う布や糸でつなぎ合わせたような、なんともちぐはぐな感じだった。
ちょっと縫い目の粗い、みすぼらしいぬいぐるみを見ているようであった。
「……キルト」
「ん?」
「キルト、っていうのは、どうですか?」
彼はきょとんとする。
そんな彼の容姿から、優は家に飾ってあったキルト人形をふと思い出したのだ。
その人形となんとなくイメージが重なったからであった。
「キルト…。そっか、おいらキルトかぁ…。うん、なんか良い響きだなぁ」
すると気に入ったのか、彼はその名前を復唱する。照れくさそうに頬をゆるめる様子に、優も少し安心した。
「よし!じゃあさっそく出口を探そうぜ。こんな所、長居は毒だ」
そう言って彼、改めキルトは張りきった様子で歩き出す。
するとその目の前を、黒い人影がサッと横切ったのだ。
「ぎゃあぁあぁああ――っ!!」
その様子に、キルトは悲鳴を上げて派手に後ろへとひっくり返る。
優はそんなキルトの悲鳴にびくりと驚いた。
「な、なんだ…。影男か、おどかすなよ」
正体がわかると、キルトは安心したように深いため息をついた。
彼がいうそれは物陰に隠れてしまい、その姿は確認できない。ただそこにだれかがいるような、人の気配しかわからなかった。
「はぁ…。あれは影男っていって、物陰にじっとたたずんでるだけの影みたいなやつだ。
ただ気配がするってだけで姿は見せないし、人畜無害だ」
そう優に説明してみせるキルトは冷や汗をぬぐった。
神出鬼没で心臓に悪いと彼は言うが、正直、優はキルトの悲鳴のほうが心臓に悪いと思った。
「そう…。立てますか?」
「ば…っ、当たり前だろ!ま、まぁ今みたいにヘンなのが他にもいるし、ここは複数で行動するのが賢明だぞ」
手を貸そうとする優を拒み、キルトは自分で立ち上がる。そして先頭を歩くのをやめ、さりげなく優の後ろへとまわった。
「…そうですね。さっそく出口を探しましょう」
先ほどまで感じていた視線は、もしかして影男の仕業だったのだろうか。
そんなことを思いながら、優はキルトにわからないように小さくため息をついたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!