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「やあ」
その少年が私にほほ笑みかけてきて、背筋をすうっと冷や汗が伝う。
親しげに、10年来の友人に向けるような笑顔で声をかけてくる、同い年くらいの少年。
知ってる。
でも、おかしい。私の目の前に立っている少年が、あのときの彼である訳がない。
私が小さかった頃に見た彼は、その時点ですでにこのくらいの年頃だった。
「やっと、また会えたね」
少年の黒瞳に、チロリと禍々しい赤色がよぎる。
――こんなに小さな子、連れて行ったってあなたとは釣り合わないでしょう。
空気から溶け出すように彼の背後へ現れた女のひと。あのときは、彼女が救いの女神みたいに見えた。でも。
今よく考えると、あの言葉は。
「たった数年で、こんなに綺麗になるなんて。ニンゲンの女性はすごいな」
ぬらぬらと照り輝く黒髪。生気のない、蒼白い肌をした顔が、近づいてくる。
ジリッと片足を引くと、少年の手が私の肩に食い込む。
「逃がさないよ。君は俺の大事な花嫁、だからね――――」
熾火のように燻っていた赤色はいつの間にか、彼の瞳を完全に支配した。
血濡れたような唇が、ゆっくり弧を描く。
紅の瞳とばっちり視線が合った瞬間、私の意識は途切れた。
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