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右腕も交換
「――よし、部屋行った……よね?」
知沙はマグカップを机に置いてから先程まで峻の右腕だったものを持ち上げ、「これが峻と私の右腕……」と感極まる。落ち着くために深呼吸しつつ、右腕を一旦机の隅に置いた。次に知沙自身の右腕を、峻が行っていたようにロック解除する。そのまま自身の右腕を外してから峻の右腕だったものをはめ、ロックを掛けた。
「これで……右腕も交換出来た!」
やったぁ。もう少しで峻と一心同体になれる。知沙は幼児が興味深いものを見つけたときのように無邪気に微笑む。今度は峻の両足が欲しいなと妄想しつつも左手で右腕を撫でた。
✽✽✽
それから半年後。
「知沙、また右腕の調子が悪いんだが。予備あるか?」
「勿論。はい、どーぞ」
「サンキュ」
夫は腕のロックを解除してから妻から渡された新品の右腕をはめる。一通りの動作を終えてから「いってきます」と威勢の良い声を愛する妻へ向け、会社へと向かった。この新婚夫婦はアパートの一室で仲睦まじく生活している。けれど妻の本当の笑顔に気が付く者は誰も居ない。
ドアが音を立てず静かに閉じるのを確認してから妻は……知沙は、また峻の右腕を掲げた。 その様子はまるで優勝賞品のトロフィーを貰って歓喜しているかのようだった。
(峻の右腕。新しい右腕。また会えたね、待ってたよ)
知沙は今でも、「峻の全て」を愛している。
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