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内保局を立ち上げた当時の首相は、経産省をはじめとした日本の中核ともいえる各省庁に、易々と日本人の戸籍を背乗りした工作員に潜り込まれてきた過去を悔やみ、反省した。内保局を立ち上げ後に当時の首相は
「目星がついた危険人物は即刻抹殺するに限る。事が起きてからでは遅すぎる」
と、腹心である大臣に語っていた。
その精神は局長が代替わりし、十年経過した今も変わっていない。
スパイ防止法を成立・施行し、内保局の初代トップだった当時の首相は、病気の悪化で政界を引退。しかしかなり強引な手段を取り法を施行したため、反日国家から今も命を狙われている。そのため内保局の幽霊セクションに所属するエージェントが、交代で護衛に付いている。倉科兄妹は、まだその任に就いたことはないが、彼らの実力から考えれば、そろそろ声がかかってもおかしくはない。
「なぁ有紗。次の任務って、いよいよ初代局長の護衛かな」
「知らないわよ、そんなこと。塚原チーフに聞くしかないでしょ」
「そりゃそうだけどさ」
肩をすくめた健人だが、誰かの足音を聞きつけ思わず腰を落とし身構えた。有紗も素早く右のショルダーホルスターから、ベレッタM92を引き抜き構える。ここは内保局本部で味方しか居ないというのに、条件反射だ。
「おいおい、久しぶりに会うのに何て出迎えだよ。しかも、こんないい女を前にしているのに無粋な真似はやめてくれよ。それと美人さん、銃口を向けないでくれるかな?」
へらへらと笑いながら両手を挙げ、軽快な足取りでこちらにやってくる男。歳は健人と変わらないようだが、身に纏う空気はかなり浮ついている。遊び人だな、と有紗は内心で苦手なタイプと吐き捨てた。
「何だ隆宏か。お前さんも呼ばれたのか?」
「この人、兄さんの知り合いなの?」
隆宏は短く健人の問いに肯定の返事を送ると、有紗の顔をじっと見つめた。無礼な奴、と表情には出さないが、有紗が嫌悪感に肌を粟立たせる。優秀な工作員で、空手の腕も立つ有紗が反応できないほどの俊敏さで、いきなり隆宏が両手を握ってきた。
「きみ、健人の妹さん? 名前は?」
「ちょ、ちょっと」
「おい隆宏、有紗に何をするんだ!」
「へえ、有紗ちゃんって言うんだ。ねぇ、突然だけど、俺と付き合わないか?」
「はあ?」
期せずして兄妹が同時に声をあげた。
「冗談言わないで、離してよ」
いくら男女の膂力差があるとはいえ、有紗も近接戦闘は、素人相手ならば負けることはない。そんな彼女が、手を握られた瞬間から渾身の下段蹴りを叩き込むのだが、隆宏は涼しい顔をしている。
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