第一章 国家機密を守り抜け

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 厳重なセキュリティ完備の十階建てマンション。内保局の、ごく限られた一部の人間しか知らない暗証番号を入力し、エントランスに入った三人。建物の半径五メートルから監視カメラによって映像が撮られ、顔認証も瞬時にされている。  国家が本気を出して監視をすれば、個人情報などないも同然。今も内保局の監視ルームでは、リアルタイムの映像が記録され分析されている。事前に健人たち三人の情報は護衛チームに通達されていたので、マンションに入れたことを彼らは知らない。 「とりあえず、異常はなさそうね」  見える範囲だが有紗は、少し警戒を弛めた。 「油断するなよ。俺たちもだが、相手もプロ。内保局の人間を買収して、ここの暗証番号を入手しているかもしれない」  自然体でありながらも不測の事態に備えいつでも動けるよう適度な緊張感を保ちつつ、兄は妹を諫める。隆宏も表面上はいつもと変わらないが、有紗と同様に周囲に視線を配り異常がないか警戒を怠らない。 「隆宏はエレベーター、俺たちは階段で」  狭いエレベーター内で銃器類は使えない。階段ならば、銃撃戦にも近接戦闘にも対応できるので、二手に分かれての行動となった。  兄妹は各々の武器を手に、極力足音を殺して駆け上がる。ハンドサインで安全を確認しつつ、前衛と後衛を入れ替えながら目的のフロアまで辿り着いた。隆宏はエレベーター前から非常階段へのドアを見渡せる位置に陣取り、壁に背を付けグロック17を構えて左右を警戒している。  このマンションは建物すべてを内保局が買い取り、常時護衛のエージェントたちが詰めている。彼らは替え玉である浅倉を本物と信じ込んで護衛しており、三人は護衛チームの増援として派遣された形となっている。出発前に渡されたインカムイヤホンを通して、護衛チームを指揮するリーダーの声が届いた。監視カメラで見ているから、部屋の前まで来てくれと言われ三人は警戒をしながら、替え玉の居る最上階の部屋まで来た。  インターホンを押すと、十秒の間を空けてからドアを開ける。同時に有紗は床に伏せ、銃口を部屋の中に向けた。健人と隆宏も死角に身体を隠して銃口を向け、相手の出方を待つ。 「クリア」  有紗がそう声をかければ、室内から両手を挙げた四十前後の男が苦笑と共に現れた。 「まったく。信用されていないんだか、任務に忠実なんだか。まぁ、それくらいの用心がなければ、この任務は務まらないが」  護衛チームリーダーの松坂(まつざか)が、ボディチェックをどうぞと言いながら背を向ける。味方とはいえ、健人たちは組織内に裏切り者がいることを知っている。念入りに松坂のボディチェックをすませてから、各々の武器を納めた。だが警戒心は未だ解かず、油断なく室内を見渡している。 「ご苦労様です」  替え玉として、王子と瓜二つな整形手術を施した浅倉が、部屋の奥から姿を現した。資料で見た本物の王子と見分けが付かないほど、その整形手術は完璧だった。
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