第一章 国家機密を守り抜け

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 それから三日は、何の異変も起きなかった。四日目の夜。敵は静かに、確実に蠢きはじめた。マンション周囲を監視するカメラは、敵が操作するパソコンによってファイアウォールを突破された挙げ句、異常のない映像を差し込んでいた。  これには監視チームも欺かれていた。国の最高機関が開発したセキュリティシステムを易々と破ったのだ。追尾システムも迎撃され暫し本部は大混乱に陥った。復旧に本部が奔走している間に、C国から送られてきた暗殺部隊は突入してきた。  マンションの屋上にも地下駐車場にも、監視カメラが幾台も設置されていた。だが、この世に完全や完璧など有り得ないのだ。カメラの死角を上手く突いて、蠢く複数の影がある。カメラを手早く次々と機能停止にさせると、ハンドサインで屋上からロープで降りるよう、リーダーが合図をする。それぞれ音もなく目的のフロアへ降りていく。  防弾ガラスは厚みがあるが、リーダーは指輪をガラスに押し当てた。そこから超高周波が発せられ、防弾ガラスに細かいひびが入る。振り子のように勢いをつけてガラスを蹴り破り、暗殺チームは流れるように廊下に雪崩れ込んでいく。  屋上からだけではない。暗殺者たちは地下駐車場に設置された監視カメラを破壊し、非常階段からも攻めてきた。ある者はパソコンを使ってマンションのセキュリティを突破していく。当然のことながら、廊下に設置されたセンサーや監視カメラの反応で内保局のエージェントたちが、編成を組んで三つのフロアを固める。 「侵入者だ!」  リーダーの松坂の声が、インカムから聞こえた刹那、浅倉を含む四人が素早く各々の武器を構える。防音設備が施されているマンションの廊下から、かすかに銃声が聞こえてくる。有紗が玄関を固め、ベランダを健人と隆宏。替え玉の浅倉は一瞬だけ躊躇ったが、結局有紗と共に玄関にやって来た。 「隠れないと駄目じゃないの」 「どうせ命を狙われているんです。己の身は己で守ります」  本音を言えば、有紗に護って貰うのは男としての沽券に関わると思っている。ライバルとしてしのぎを削っていた日々。その中でいつしか芽生えた異性としての思い。浅倉は自分の心の有り様を冷静に分析している。どちらかと言えば、自分が有紗を護りたいと思う。だがそんな本音は一切押し隠し、油断なく愛銃であるワルサーP99を構える。 「銃声からすると敵も味方も、自動小銃(ウージー)ね。突撃銃(アサルトライフル)じゃないから、ハンドガンでも充分に渡り合えるわ」 「近付いていますね」  銃声が少しずつ減っている。ベランダの窓際に張り付いた二人の緊張も、痛いくらいに張り詰めている。隆宏の指が、緊張を孕みつつも遮光カーテン越しロックを外そうとした刹那。不意に外で数人分の気配を感じた。獣並みの瞬発力で隆宏は脇に退く。高周波ショック・ウエーブでガラスを粉砕し、体格の良い男二人が雪崩れ込んできた。 「おい、こっちが本命だ!」  隆宏の声に浅倉が振り向く。有紗は念のため、玄関ドアから目を離さない。
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