第一章 国家機密を守り抜け

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 飛び込んできた相手は銃を引き抜いていたが、隆宏が素早く腕を伸ばし撃たれる前にその手首を掴む。外側に捻ると相手のバランスが崩れた。相手の喉笛を掴むと同時に足払いを掛け、喉輪落としの要領で床に仰向けに叩きつける。敵の顔面を素早く踏み抜き、鼻骨を蹴り潰す。そのまま膝を喉仏に落とし、口から泡を吹かせ絶命させた。手早く敵の武器類を取り上げ、己の物にしてしまう。  健人も同じように続けて入ってきた襲撃者を捕らえ、顔面をフローリングに叩きつけた。髪を掴み上半身を引き上げると片膝を相手の腰に乗せて海老反りにさせ、チョークスリーパーで締め上げる。腕は瞬く間に頸動脈を圧迫する。 「ぐあっ」  真っ赤な顔は、酸素を求めて口を大きく開く。襲撃者の両手は、何とか健人の丸太のような腕を振りほどこうと動くが、健人は頭を掴まれないよう巧みに避ける。やがて相手の抵抗する力が失せたが、念のために相手の頭を捻って首の骨を折っておく。  最後に遅れて最後に飛び込んできた女がいた。右肩を有紗が左膝を、浅倉が撃ち抜いた。落とした拳銃を建人が拾い上げ腰に差す。利き手と左膝を撃ち抜かれ、床に這いつくばった女は呻き声を上げながらも、それでも動こうと執念を見せる。 「女はどうする?」 「当然、尋問でしょう? せっかく生かしたままにしたんだから」  右肩と左膝から血を流し、苦しそうに喘いでいる女を無慈悲に一瞥した健人と有紗。C国の女暗殺者は浅倉を見ると左手でナイフを引き抜き、それでも飛びかかろうとしてきた。有紗の蹴りが、容赦なく女の下顎を捉え振り抜いた。脳震とうを起こした女は白目を剥き力なく倒れた。  転がっているC国の工作員たちを見下ろしていると、不意にインカムが音声を届けてくる。 『こっちはクリアだ。そちらは?』  四人の耳にいきなり飛び込んできた松坂の声に、いささかの乱れもない。気がつけば廊下からの銃声も聞こえなくなっている。 「男の二人は始末。女をひとり捕獲した」  隆宏の報告に松坂は短く了解と応え、次いでそちらに行くと告げると通信が切れた。  二時間後。  任務を無事に終えた建人たち三人は、眠っている女工作員に適宜麻酔薬を注入しつつ、内保局の本部に戻ってきていた。そのまま地下深くに設けられた尋問室へ女工作員を連行し、情報を吐かせるべく準備をする。 「さて、誰が尋問する?」  椅子に縛り付けられた女工作員を見下ろし、健人が抑揚のない声で問う。浅倉は替え玉という正体の発覚を防ぐため、内保局内の特別室に護衛付きで身を隠している。尋問室は完全防音で、あらゆる責め苦を与える道具は揃っている。  拷問は捕虜の人権を保護するためにジュネーブ条約によって禁じられているが、そんなものが建前であることは周知の事実。C国が少数民族に対して現在進行形で筆舌に尽くしがたい拷問を加えていることは、暗黙の了解事項。ましてやこの暗殺チームの連中は、日本へ正式なルートで入国していない。そんな連中に何の遠慮も配慮も必要であろうか。
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