第一章 国家機密を守り抜け

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「男性陣は却下よ。C国の女狐は、ハニートラップが常套手段。尋問の途中で、逆に骨抜きにされても困る」  有紗はそう言うと、二人を部屋の隅に下がらせた。睨みつけている女の頬を、いきなり左の裏拳で殴りつける。続けざまに掌底を顎に叩き込む。言葉を発する間もなく女が失神するが、有紗は構わず腹部に蹴りを入れた。空手の有段者であり合気柔術を修めている彼女の蹴りは、手加減していても重い。女工作員は胃液を吐いて、強制的に目覚めさせられた。 「汚いわね。汚さないでくれる?」  言葉と同時に、今度は強烈な平手打ちが飛んだ。床にコンクリートで固められた椅子に縛り付けられているため、女工作員は衝撃を逃がすことも出来ない。 「聞きたいことは山ほどあるの。誰に王子暗殺を命じられた?」  素直に話すとは思っていない。有紗は拷問道具の中から、細い竹串を一本取り出し、椅子の背後に回る。握り拳を作っている女に構わず、腕に竹串を突き刺す。 「ぎゃあっ!」  思わず声を上げた女に、満足そうな笑みを浮かべる有紗。だが女工作員にとってそれは、悪魔の笑みにしか見えなかった。 「さっさと喋らないと、もっと苦しい目に遭うわよ」  流暢なC国の言葉を操って、有紗は古典的な拷問を始める。すなわち、爪の間に竹串を突き刺すというものだ。どんなに痛みに耐える訓練を受けていようと、人間が耐えられない痛みというものは必ず存在する。神経が集中している爪の間などは、その典型だ。 「さあ、どれだけ耐えられるかしら?」  竹串を爪の間に突き刺したまま、今度は乗馬用の鞭を手に取ると、容赦なく顔面を打ち据えた。女の頬が傷つき、血が流れる。 「ほら、質問に答えなさいよ」  容赦のない鞭捌きに、見ていた隆宏は思わず目を背ける。あまりの凄惨な光景に、見守っていた隆宏の顔色がどんどん悪くなっていった。 「なあ健人。有紗ちゃんって、サディストなのか?」  隆宏がおずおずと尋ねると、肩をすくめてC国の女工作員を一瞥する。 「有紗は自分が敵と判断した人間にしか、サディスティックにならないよ。男女問わずな」  あいつにSM嗜好はないから安心しろと続けられ、隆宏は安堵の息を吐いた。顔に似合わず有紗がサディスティックな一面を見せたので、彼女を口説くことを見合わせようと、一瞬だけ考えたからだ。女工作員は頑なに口を割ろうとしない。爪の間に竹串の本数が増えようと、顔が血だらけになろうとも。 「しぶといわね」  舌打ちをもらすと、撃ち抜かれた左膝を容赦なく蹴る。骨が砕かれた音が響き、女が悶絶する。 「有紗ちゃん、俺たちは席を外すよ」 「出て行きたかったら行けよ。俺は見届ける」  さすが兄妹というか、サディスティックな嗜好は共通のようだ。顔をしかめ首を振りつつ隆宏は例の部屋で待っていると残し、出て行った。
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