第一章 国家機密を守り抜け

13/14
前へ
/80ページ
次へ
「さて。気の小さい人が出て行ったから、遠慮なくできるわね、兄さん」 「ああ。俺は隆宏と違って、女の色香に惑わされたりはしないからな。容赦なくいくぞ」 「じゃあ答えて貰いましょうか。お前たちのチームの他にも、王子を狙う暗殺チームが日本に入り込んだの?」  女の返答は、血液混じりの唾を健人に吐きかけることだった。健人は無表情のまま拳で殴りつける。男が手加減せずに殴りつけたものだから、歯が折れて血が溢れ出てくる。 「さっさと白状すれば痛い目を見なくて済むのに。馬鹿な女」  女の母国語で嘲笑混じりに言い放つ有紗を睨みつけても、その目には若干の怯えが混じっている。この男女は、想像以上に残虐な嗜好を持ち合わせているらしい。血飛沫が吹き飛んでも、顔色ひとつ変えていない。むしろ痛めつけることに、喜びすら感じているきらいがある。痛みで身を捩る女を尻目に、健人は部屋の片隅に置いてあった工具箱の中から、五寸釘を二本取りだした。  まだ新品のそれは光を反射して煌めいている。一本を妹に手渡した後、健人は何の躊躇いもなく女の右太股へ突き刺した。有紗も兄に倣い、左太股に突き刺す。肉を深く噛んだそれらは垂直にそそり立ち、確かな存在感を主張していた。 女の絶叫が響く。有紗はそれを無視すると部屋の隅にある二本の電極を、それぞれ五寸釘に繋げた。  何をされるか勘付いた女が必死に身を捩るが、縛められた全身は椅子と一体化している。その椅子の足もコンクリートで床に固められているので、どう足掻いても逃げ場はない。突き刺さった五寸釘の痛みもさることながら、これからの痛みに心が恐怖する。 「さっさと吐いて楽になった方がいいわよ」  最後の警告だったが女は頑なに拒む。仕方ないと有紗が肩をすくめたのを合図に、健人は電気のスイッチを入れた。瞬間、女の全身が大きく跳ねた。このままずっと電気を流し続けるとショック死してしまうので、頃合いを見て止める。口を割るよう促すが、涎を垂らしながらも女は拒否していた。  三十分後。  兄妹は、地下室から地上の特別室へ移動してきた。疲労の色が濃く、出迎えた隆宏と浅倉も驚きを隠せない。兄妹だけが地下の尋問室に残って、三十分が経過していた。拷問の凄惨さを物語るかのように兄妹の服には血痕が付着しており、生々しいにおいまで発している。着替えるのも面倒だったらしく、二人は隆宏たちの顔を見ると安堵の表情を浮かべた。 「よう、どうなったんだ?」 「暗殺チームは、今回送り込まれたのが精鋭部隊だったようだ。それを殲滅させられたとあれば、暫くは王子の命を狙わなくなるだろうな」  ふうと大きく息を吐いて、健人はソファに座った。拷問は責め手もかなり神経をすり減らす。女の前では余裕のある風を装っていたが、実際には兄妹はかなりナーバスになっている。有紗も兄の隣に座ると軽く息を吐いた。 「今のうちに本物の王子を本国に帰せば、奴等の裏を掻くことは出来ると思うの。向こうのレジスタンス部隊とは、日本政府も裏で繋がっているしね」  そうなると浅倉も王子の影武者という任務から解放され、再び整形手術を受けて生まれつきの顔に戻ることになる。特殊な変装用の人工皮膚を常時付けて王子に成りすまさなかったのは、敵も本物かどうか顔の皮を剥がそうとするくらいは平気でするからだ。偽物とばれたらその場で命がない。だから遠回りに思えるが、整形手術をして王子の身代わりになった。浅倉は身代わりの任務が終わったら、現場復帰を願い出ている。
/80ページ

最初のコメントを投稿しよう!

16人が本棚に入れています
本棚に追加