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「銃弾は左右の肺に一発ずつ、三発目は肝臓を破壊していた。直接の死因は、肺を傷つけられたことによる窒息と失血だ」
兄妹のどちらからともなく、大きな息が漏れる。作業場で見たあの少量の血痕。あれは肺を潰された香澄の吐血だったのかと、兄妹には得心がいった。肺を撃たれると、己の血液で呼吸困難に陥る。血液が肺に充満して、溺死のように苦しさに見舞われ死に至る。
「死因は特定されたが、使用された凶器の特定には至っていない。体内に残された弾の施条痕は、我が内保局に登録されていない銃のものだった」
「それじゃ、犯人が個人的に所有している銃だと?」
「規定違反ではありませんか。この国ではまだ、一般人の銃所有は許可がなければ違法でしょう?」
「一般人が内保局に入れるわけがない。やはり、内部犯行じゃないか」
最後は有紗に向けてだった。先ほど止められたことへの苛立ちが、再び頭をもたげたようだ。今にも香澄が担当していた他の三人の許へ行きたそうな建人を、今度は塚原が止めた。
「憶測で物を言わないほうが良い。仮に高田くんが担当していた三人の誰かだとしても、その動機は? 彼らだって自分の担当ガンスミスが殺されて、今後は誰にメンテナンスを頼んで良いのか悩むかもしれん」
特殊な技術職ゆえに、内保局に所属するガンスミスは少数精鋭だ。三年前に一人、そして今回香澄が死去したことで人数は六人に減ってしまった。己の命を守る銃器のメンテナンスを、簡単に代えるのは難しいのだ。人間同士の信頼関係は勿論、癖というモノを覚えて貰うのにある程度の時間がかかってしまう。それが意外とストレスになる。
「そういえばチーフ、この件は皆に知れ渡っているんですか?」
「いや、まだ各セクションの長だけだ。君たちだから言うが」
健人の疑問に対し塚原は意味ありげに言葉を切ると、殊更に声を潜めて続けた。
「各セクションの長を含め上層部は、高田くんはヴェロスラフ第二王子殿下の件をC国に密告した誰かに、口封じされたのではないかと疑っている」
何の根拠がだの、密告者の目星がついたのかだのと、兄妹が口々に追及する。それを左手で制した塚原は、ある防犯カメラの映像をプリントアウトしたものを二人の前に見せた。それは日付もしっかり入っており、かなり鮮明な画像だった。
「こ、これは?」
長澤と情報分析官である佐々木が、並んでガンスミス・セクションに入っていく写真だった。長澤は銃のメンテナンスを香澄に頼んでいた一人なのでまだ判るが、彼女――兄妹の母でもある佐々木は何の用があってガンスミス・セクションに赴いているのか。日付は昨夜の二十三時。独身女性の許へ訪れるには、不適切な時間帯ではないか。ましてや、彼らは香澄の身内でも何でもないのに。
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