1人が本棚に入れています
本棚に追加
正義のヒーロー代行業
「おはようございます! こちら、正義のヒーロー代行業! ヒーロー代行本屋ひろしです!」
今日も朝一番に狭い事務所に黒電話の音が鳴り響く。電話の第一声は会社の顔。意識して、明るくハキハキと電話に出れば、聞こえてきたのはたどたどしくも期待に満ちた子供の声だった。
「あ、本屋さんですか? 仮面戦隊カルラマンのファンムック、予約したいんですけど?」
「あー、ごめんなさい。うち、そういうのやってないんですよ。ええ。ええ。ごめんなさいね」
ガチャン
俺の名前は本屋ひろし。
生まれ育ったここ金沢の町で、ヒーロー代行業を営んでいる。
現在32歳、独身。おとめ座のA型。趣味はオリジナル特撮ヒーロー動画作成。絶賛ヒロイン募集中、である。
だが、この名字のせいか、かかってくる電話はヒーローものの本、はたまた催し物に関するものばかり。会社のホームページにもきちんとフリガナを振ってあるんだよ? 会社概要に書いてあるんだよ? おかしいこともあるものだ。
どこがいけないのだろうとホームページを確認していたそのとき、再び、黒電話が鳴り響いた。
「おはようございます! こちらヒーロー代行本屋ひろしです!」
「あ、助けて下さい」
これはいいぞ。久しぶりにヒーローの匂いがする。
「お嬢さん、どうされました?」
受話器の向こうから聞こえた声に、俺のかっこつけモードが少しだけ発動してしまう。
「うちの子が、うちの子が!」
途端に取り乱す若い女性の声。
「お嬢さん、先ずは落ち着いて。お子さんがどうかしましたか?」
「ヒーローが見たい、ヒーローが見たいって家の中で暴れて手が付けられないんです」
「それはいけませんね。悪の秘密結社ダヤイに洗脳されているかも知れません。すぐにそちらに向かいます」
「あの、それで……」
「どうしました、お嬢さん? 私は子供がいても構いませんよ」
「仮面戦隊カルラマンの本を配達して頂けませんか?」
ガチャン
最初のコメントを投稿しよう!