ある頭の弱いめんどりの話

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 ある日、めんどりが餌を食べるために少しだけ卵から離れている間に、卵は一つもなくなってしまいました。人間に全て回収されてしまったのです。人間はこれまで、めんどりがあまりに必死で卵を守るので、手出しができなかったのです。  めんどりはショックで、半狂乱になって卵を探し回りました。そんなめんどりを、他のにわとり達は思いっきりバカにしました。自分の卵(有精卵)を取られそうになった別のめんどりは、「これは私の卵だ!」と思いっきりつついて蹴って追っ払いました。  探し疲れためんどりは「あたしの卵!! あたしの子供達!!」と大泣きしました。  そんなめんどりをバカにした一羽のにわとりが、ある日外に出た時に不思議な卵を見つけました。その卵はまん丸で、明らかににわとりの卵とは違いました。でもにわとりは、面白半分でめんどりの寝床にその卵を入れました。  めんどりは卵を見つけて大喜び。涙を流しながら卵を優しく抱き寄せ、温めます。幸せそうに語りかけながら。  それを見ながら、他のにわとり達は笑いました。 「バカだなぁ。にわとりの卵との違いもわからないなんて」 「何の卵なんだろうな。せいぜい変なものが孵って、ビックリすればいいや」  めんどりは、バカにされても気になりません。卵が帰ってきたことが、嬉しくてたまらないのです。 「あたしの可愛い卵。もう離さない、絶対に」  やがて卵の中から、コツ、コツ、と音がします。今度は本当の音。卵から、出たがっているのです。  めんどりは息を呑んで、卵を見つめました。 「もうすぐ会えるんだ! あたしの可愛い子に!」  ところが、殻を割ってその隙間から出てきたのは、黒くてぬるりとしたものでした。めんどりは間もなく、それがヒヨコではないとわかりました。  沢山の赤い目を持つ、ぐにゃぐにゃした不定形の不気味なバケモノ。それが、紫色の舌を見せて、たどたどしく言うのです。 「マ、マァ……」  めんどりは怯えましたが、「マンマ……」と弱々しくすり寄ってくるバケモノを見て、思い直しました。 「どんな子でもうんと可愛がってあげるって決めたんだ」  めんどりはバケモノを優しく抱き寄せ、みんなから隠すように温めました。
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