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我、サイゼリヤにてペペロンチーノを食す
「ちょっと、イツキ! 昨日、デートに遅刻しておいてその言い訳はなんなの!? 昨日は理由を聞かなったけどさ!」
「あー、ゴメン。本当にゴメン! デザートいくらでも食べていいから許して!」
近所のサイゼリヤで少し遅い昼食を食べていると、後ろの席から若い男女の声が聞こえてきた。その口調から痴話喧嘩であることが強く推定される。
素直に感情がぶつけられる相手がいるというのは良いものだぞと、無駄に人生の先輩を気取りながら、私は目の前のPA03ペペロンチーノを頬張る。
このお値段と飽きのこない味、実にいい。最近の花粉症も昨日の赤っ恥体験もどこかへ吹き飛ぶようだ。大盛がなくなってしまったのは非常に残念だが、食べ足りない場合はデザートとドリンクバーを我慢して追加注文すれば良いだけの話だ。私には造作もない。
「だいたい何でサイゼリヤなのよ! もっと良いお店のスイーツを食べさせなさいよ!」
なんだと!?
こいつ、私の心の三ツ星レストラン、サイゼリヤのスイーツを馬鹿にしやがった!
イタリアンスイーツの数々をこの値段で食べられることを、日本に来たイタリア人が小躍りして喜んでいることも知らないとは、なんと世間知らずの小娘なんだ!
お姉さん、イタリア人風に怒っちゃうぞ!
「落ち着けよ、ヒナタぁ。ほら、このジェラートとかレモンのシャーベットとか、美味しいから食べてみろよ」
彼氏君は実によく分かってるではないか。そこの小娘と席を代わってもらいたい気分だよ、まったく。
「ところでさっきの言い訳、本当なの?」
「なんだっけ?」
「……やっぱり嘘だったの?」
「あ、あー、あー、そうだった。うん、本当だよ」
「でも、駅前でゴミ袋を被った人が転んでた、なんて言われて信じると思う?」
駅前でゴミ袋……、どこかで聞き覚えがあるような。
「本当だって。半透明のでっかい袋の人が少し前を歩いててさあ、なんだろうと思って見てたら、段差に引っかかって漫画みたいに転んだんだよ」
「それで、どうしたんだっけ?」
「もちろん駆け寄って助けたさ。膝を押さえてごろごろじたばたしてるし、袋の中は血塗れだし」
ホ、ホワッツ!?
「嘘っぽいけど、まあ、いいわ。許してあげる」
「本当にいたんだって、ゴミ袋なんか固結びしてて開けるの大変だったんだよ?」
「はいはい」
私はいても立ってもいられず、残りのペペロンチーノを超高速で吸い込んだ。
そして、若者たちから顔が見えぬようにぎこちなく歩き、サイゼリヤを後にした。
その子が花粉症対策でゴミ袋を被ろうとしたら、全力で止めるんだぞ、イツキ君。
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