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居場所
×××
それから僕は、この部屋で何度目かの朝を迎えた。
勿論、学校には行っていない。
最初のうちは、とんでもない所に来てしまったと思っていたけど。住んでみると、案外居心地が良くて。
誰かが人数分のお弁当を買ってきてくれるし、毎日お風呂にも入れる。
虐げられたり、罵声を浴びる事もない。
例えハイジがここに居なくても、みんな変わらず裏のない笑顔で接してくれる。
こんな事、今まで無かった。
僕をちゃんと見てくれる人なんて、居なかったから。
ここを離れたくない。ここにずっと住みたい。
ここのみんなと、『家族』になりたい──
「姫。プリン買ってきたけど、食う?」
「……ううん」
「何か欲しいもんあったら、遠慮なく言えよな」
「うん……」
コンビニ袋をぶら下げて帰ってきた二人が、部屋の隅で膝を抱えて座っている僕に声を掛けてくれる。
「じゃ、冷蔵庫いれとくから。好きな時に食えよ」
「……ありがとう」
この部屋には似つかわない、少し大きめの冷蔵庫。そのドアを開けて中段にプリンを仕舞ってくれる。
本当にみんな、優しい。
僕の素性をあれこれ聞いてこないし、適度な距離感を保っててくれる。
それがどんなに気が楽で、安心できるか……
「姫もゲームやる?」
「こっち来て、一緒に遊ぼうぜ」
転がっていた携帯型ゲーム機を掴み上げ、もう一人が気楽に誘ってくれる。
たったそれだけなのに。……嬉しい。
「──って、お前ら! ちったぁ気ぃ遣えや!!」
勢いよく浴室から飛び出したハイジが、寛ぎながらゲームを始める二人に喰って掛かる。
「……あー。さっき俺らを追い出そうとしたのって、そういうコトね」
「つーか。ココ使うの禁止って言ったの、ハイジだろ?」
苛立つハイジをものともせず、冷静に反論する二人。
「はァ?! す、スる訳ねーだろ、……アホ!」
頬を赤く染めながら、子供染みた反撃するハイジ。
だけど腰にタオルを巻いただけの姿では、どんなに吠えても説得力なんてない。
「だったら、ハイジが姫連れてどっか行けばよくね?」
「たまには恋人らしいデートとかしたいよな、姫?」
「……え」
突然振られて、戸惑う。
でも確かに。ハイジと二人で、外に出てみたい。
「うん……」
「──わァったよ!」
肩に掛けていたタオルで髪を拭きながら、ふて腐れ顔のハイジがチラリと僕を見る。
「出掛けるぞ、さくら」
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