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だけど──
それすらも許さないのか。
男の律動が激しさを増すと、更に僕の頭部が深くベッドに沈められる。
『この角度、アゲハに似てんな』──ふいに思い出される、男の発した台詞。掻き混ぜられてぐちゃぐちゃになった頭の中で渦巻き、確実に僕の心を蝕んでいく。
……結局この人も、兄なんだ。
兄の代わりに僕を抱き、何処にも吐き出せない欲を僕で満たしているだけ。
ただ、それだけ──
そう思ったら。あの穏やかな温もりまでもが偽物にすり替わり、僕の手中からすり抜けていく。
「───んぅう″っ、あぁ″…ぁ、う″ぁあぁぁ″っ、!」
ズッ、ズッ、ズッ、ズッ、……
容赦なく打ち込まれる深層部。抉られる、柔くて脆い心。止まらない抽送。
きつく瞑った目の際から涙が溢れ、無情にもシーツを濡らした。
「この事、アゲハには言うなよ」
「……」
コトを終えた男が、咥えた煙草に火を付ける。……まだ、高校生なのに。
血液の混じった精液で、ぐちゃぐちゃになった下肢をそのままに……首を少しだけ傾けて、隙間の空いた脇から男の様子をぼんやりと眺めていた。
鼻を擽る、兄の匂い──仄かに甘くミントのような爽やかな匂いが、漂う煙草に阻まれ咽せてしまう。
「……げほっ、」
「煙いか?」
答えずにいれば、まだ吸い始めた煙草を、何の躊躇もなく携帯灰皿に揉み消す。
……え……
妙な所で覗かせる、男の気遣い。
だからつい、錯覚してしまいそうになる。僕を思って、してくれた行為なんだって。
背後から抱き締めてくれた、あの穏やかな温もりさえも。
「……」
何も答えないでいると、チラリと僕を盗み見た男がつまらなそうに携帯灰皿の蓋を閉める。
「別に、言ってもいいぜ。山本竜一に犯された、ってよ」
「……」
何で……
何でそんな事、言うんだろう。
この人の意図が解らない。
そう言っておけば、僕が黙っておくとでも思ったのか。
それとも──
頭を擡げ、広がった視界に映る男の横顔。その片耳に鈍く光るのは、十字架のシルバーピアス。
「……」
──全然、気付かなかった。
これは少し前に、アゲハがしていたものと同じピアスだ。
その瞬間、ヘドロのような感情が胸の奥に積み溜まっていく。
もし、この一連の出来事が、二人の色恋沙汰に巻き込まれただけの薄っぺらいものだったとしたら──こんな滑稽な事なんてない。
「……」
シーツを強く握り締め、二人を憎らしく思いながら息を殺す。
*
これが、僕の初体験。
僅か12歳。桜吹雪の舞う季節だった。
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