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家出
×××
家出をした。
ゲイパーティー参加の後、ハイジにお持ち帰りされ──その成り行きで居候させて貰う事になったけど。
未だに信じられない。そんな勇気が、僕の中にあったなんて。
ドォルルンッ……!
夜風を切って走るバイク。
連れて来られたのは、繁華街の裏手に広がる住宅街の一角。大通りからそう遠くない、少し奥まった場所にある古びたアパート。
駐輪所を照らす照明が、チカチカとしている。その電気に集まる、害虫。
所々ひびの入ったコンクリートの廊下に上がり、一階角部屋のドア前に立つ。と、薄い玄関ドアの向こうから騒がしい声が聞こえた。
「ここにいンのは、チームの仲間だから。心配ねーよ」
「……チーム?」
「っそ! オレのチーム!」
他に誰かいるなんて思わなくて。
不安に駆られる僕に、ハイジが笑顔を見せる。
「ワッハハハ……!」
「おぃ、テメェ──!」
「……うっせーよ、タコ」
ワンルームの狭い部屋。
6~7人程の厳つい男達が円状に座り、咥え煙草でカードゲームをしている。
むぁっ、とする熱気。充満する紫煙。鼻をつく異臭。
思わず咳き込み、鼻を抓む。
「お帰り。……って、誰だよソイツ」
此方に顔を向けた男が、睨めるように僕を値踏みする。
その声に、賭博に熱中していた全員が顔を上げ、視線を僕に向けた。
「オレの女」
「……はぁ!?」
「つーか、男じゃん!」
一斉に入るツッコミ。
「あれ、知らなかった?
オレ、可愛ければ性別関係ねーの。……つー事で、よろしく!」
怖じけて陰に隠れる僕の手を握り、ハイジが部屋の奥へと引っ張っていく。
その間……視線が僕に集中し、見世物にされたようで余りいい気分じゃなかった。
ワンルームにしては珍しい畳張り。玄関横には、古い造りのシステムキッチン。普段から使っていないんだろう。全体的に輝きを失っていた。
部屋の奥にあるベランダ窓は遮光カーテンで締め切られ、キッチン以外の小窓は他に見当たらない。
本当にここで、生活しているんだろうか。テーブルもなければテレビも無い。……本当に何もない、殺風景な部屋。
不良の溜まり場と化したこの場所に、身を置いてしまっていいんだろうか。パーティー会場の時とは違う、不安と恐怖が僕を襲う。
「……寒ぃンか?」
部屋の隅に腰を下ろした僕の顔を、覗き込んだハイジが気遣ってくれる。
「……」
「さっきから身体、震えてんぞ。毛布出してきてやるから、ちょっと待ってろ」
「……」
頼みの綱であるハイジが、離れていく。
僕の心情などお構いなしに。
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