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立てた膝を両腕で抱え、背中を丸めて踞る。
「……」
……チーム、って何だろう。
ハイジは一体、何者?
もしかして僕は、とんでもない人と出会ってしまった……?
「名前、何ていうの?」
カードを片手に持ち、振り返った男──短髪黒髪、細いつり目の男が、優しげな口調で僕に話し掛けてくる。
「……さくら」
「へぇ。可愛い名前だなぁ」
トンッと片手を後ろに付き、上半身を捩って近付くと、僕の顔を覗き込む。
「よろしく、姫」
「……え」
「ハイジの女、なんだろ?」
そう言った口元が厭らしく歪み、僕の心情を探るような目付きに変わる。
「──オイ、太一! 勝手に話し掛けてんじゃねぇよ」
「うるせぇなぁ……」
面倒臭そうに言い放つ男──太一が、もう一度僕をチラリと見た後、カードゲームの輪に戻る。
ギャハハハ!
オラァ!!
騒がしい声。
煙の濃度が上がり、白く霞んで澱む空気。
畳上に、空になったビール缶が幾つも転がっていた。
「……」
頭が、クラクラする。
昨日までとはまるで違う世界。
この環境の変化に戸惑いながらも、踵を更にお尻へと近付け、身を縮める。家に居るよりはマシだと、自分に言い聞かせながら。
「……これで、いいか?」
持ってきた薄手のケットを、ハイジが僕の肩に掛けてくれる。
その端を掴んで鼻先に近付ければ、湿気った時につくカビの臭いがした。
「うん」
「……さくら」
傍らに腰を下ろし、僕の肩に腕を回したハイジが優しく引き寄せる。
「ここにいる奴らはみんな、何かしら事情を抱えてる。
帰る家や居場所が、他にねぇんだ」
「……」
「抱えてるモンは、それぞれ違うかもしんねーけど。……でも、人を見掛けで判断するような奴は、ここには居ねぇよ」
「……」
……ハイジ……
さっき僕が、あんな事言ったから。気にして──
ハイジの顔を覗き込めば、僕を見つめる眼が柔らかく緩み、優しい光を宿す。
「だから、安心しな」
「……」
「ここじゃ、誰にも虐げられねぇし、差別もされねぇ。
似た者同士が集まった、血の繋りのねぇ『家族』みてぇなモンだ」
「……」
血の繋がりのない、家族──
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