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衝撃【プロローグ】
中学に上がって直ぐ──僕は、兄の友達に強姦された。
それは余りに突然で。春に吹き荒ぶ嵐に良く似ていて。
一瞬にして、枝先から切り離された桜の花弁は、強い旋風に飲まれて舞い上がり、どこまでもどこまでもどこまでも……自由を奪われ、流され続けるしかなかった。
*
「……ぅ″、あぁぁ″っ、」
──ぐち、ズッ……ズズッ、
ギシッ、ギシッ、ギシッ
床に両膝を付いたまま、ベッドに伏せる顔。その後頭部を、大きな手のひらに上から押しつけられ、まともに息ができない。不様に突き出したお尻。その窄まりに、男の──質量を増し硬くなった男の切っ先が、宛がわれると同時に最奥まで捩じ込まれる。
メリメリと引き裂かれ、容赦なく暴かれたソコは、既に痛みで感覚が麻痺し──ただ只管に耐えながら、この嵐が過ぎ去るのを待つしか無かった。
どうして、こんな……
絶望に打ちひしがれ、苦痛で顔を歪め、シーツを強く握り締めながら、止めてしまった息を何とか吐き出す。
少し前。
一人、学校から帰宅すると、家の前に見知らぬ男性が立っていた。
兄と同じ高校の制服。短髪黒髪に、ガタイの良い体つき。背の高いその人は、スラックスのポケットに両手を突っ込み、賃貸の平屋である僕の玄関をじっと睨みつけていた。
『………あの、』
怖ず怖ずと声を掛ければ、その厳つい人が振り向く。
見下げた切れ長の眼。スッと通った鼻筋。少し厚めの唇。浅黒い肌に目鼻立ちのハッキリとした顔立ちは、何処かオリエンタルな雰囲気を纏っていた。
『兄に、御用ですか?』
『……ああ』
ぶっきらぼうに答えるその人の目尻が、少しだけ吊り上がる。その中に填め込まれた焦茶色の瞳は、ガラス玉のように無機質で冷たい。
その感情の視えない眼を──僕は以前、何処かで見たような気がしていた。
鍵を開け、玄関のドアを開ける。薄暗くてヒンヤリとした屋内。男は遠慮せず靴を脱ぎ、兄の部屋へと向かって突き進む。
この家の勝手を知っているんだろう。その背中を見届けた後、台所へと足先を向けた。
冷蔵庫から麦茶を取り出し、トレイにのせたお客様用のコップに注ぐ。と、ふとデジャヴのような感覚に襲われ、兄の部屋で寛ぐ男の面影が脳裏を過る。
……あ……
思い出した。
あの人、確か以前に、兄が連れてきた人だ。
まだ僕が小学生の頃。同級生を何人か引き連れた兄に頼まれて、お茶菓子を用意したっけ。……あの時、他の人とは少し違う雰囲気を纏っていたあの人が、少し気になったのを覚えてる。
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