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最近、こんな噂がある。
この街には怪物が棲んでいる。
出現場所は、三角公園と呼ばれる遊具がひとつもない公園。
時間は丑三つ時。
怪物はマスクをした女性の姿をしており、問答を誤ると命を奪われるのだと言う。
うん、ものすごく既視感のある話。
草木も眠る丑三つ時――なんて言うが、歩いて5分のところにはコンビニがあるし、公園の向かい側には自動販売機が煌々としている。
芝生とベンチのみの公園に死角などないので、こんなところにどうやって怪物が棲んでいるのさ。というのが私の正直な感想だ。
飲み会帰りのおじさんか、昼夜逆転している若者か。深夜の迷惑行為にキレた近隣住民がでっち上げた噂。というあたりが順当ではないだろうか。
周囲は静まり返っている。噂が陳腐なおかげで、ホラー専攻の好事家さえも近付かない。
名前も知らない住民よ、あなたの戦略は大成功ですよ。と褒め称えたいところだ。
コイツさえいなければ。
私は自販機の光に照らされた女を睨みつけた。
よく笑う大きな口が開く。
「人気もなく、薄暗く、そこはかとなく漂う不気味さ。これは絶対いるでしょ! ねぇ先輩!」
「夜中なんだから静かなのは当たり前。薄暗いのもそう。不気味さはアンタの主観だよ。
取り合えず声を抑えなさい、バカ」
「……ごめんなさい」
窘められて、私をここに連れ出した声のでかいバカ、朱里はしゅんと目を伏せた。
バカはあまり好きではないけれど、素直なところは嫌いじゃない。
私は自分よりも背の高い後輩の頭を押し付けるようにぐりぐりと、地球に、マントルにまでめり込ませてやろうという気持ちで撫でた。
「うれしいですけど、ちょっと痛いです~」
朱里は膝を折り曲げて笑った。
屈託のないバカ。高校時代からの付き合いである朱里は人懐っこく、誰とでも仲良くなれるくせに私の後ばかり付いてくる。
一年遅れで就職先まで追いかけてきたのは驚いたが、彼女はそのコミュニケーション能力を十二分に発揮し、周囲から高い評価を受けている。優秀な後輩に慕われて誇らしいのは事実だ。
だからこそ、私は忙しいのだと言いながら、朱里の呼び出しには応じてしまう。
同じ職場なのだから忙しさ具合は知られているし、……私も彼女のことはまぁまぁ気に入っているのだ。
「で、こんなところに連れてきて、アンタは一体何がしたいの?」
問いかけると、朱里のくちびるは大きく弧を描いた。
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