第41話 巽州公(父)side

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第41話 巽州公(父)side

 妻を幽閉した。  夫として酷い仕打ちだと思う。恨まれているだろう。だが、このまま妻を野放しにはできない。  そもそも離縁などできん。  仮に離縁できたとしても、事と次第では両家共々ただでは済まない。八州公でない楊家は間違いなく没落する。我が家への被害も甚大だ。……美娘は分かっていたのだ。こうなるであろうことを。だから先手を打った。当事者たちの意志を置き去りにした婚姻契約。長女のお陰で巽家は最低限の被害で抑えられた。  無官になった楊圭も屋敷で飼い殺しにされるだろう。  なにしろ、下に数人の弟がいるのだからな。楊家の当主は情に厚いが、奥方はそうではない。実の息子であっても容赦なく切り捨てる筈だ。八州公の本家の姫らしく……な。  恐らく、既に楊圭に対して何らかの罠を仕掛けている筈だ。  如何に、当主夫人とはいえ、瑕疵のない長男を廃嫡する事は叶わない。事実上の廃嫡とはいえ、それでは何時復権するか分かったものでは無いからな。下の子供を守るためにも楊圭を『贄』にするつもりだろう。  その後、実家に居づらくなった楊圭は外に出歩くようになった。無位無官になっても楊家の長男。その名に釣られる者は多くいたようだ。評判の悪い連中とつるむようになると転落は更に加速した。  表向き「楊家の嫡男の跡取りを産んだ陀姫」は、「夫に顧みられない上に悪い道に進む夫を止める事もしない妻」の烙印を押された。かなり荒れているという噂だ。  我が家にもしきりに陀姫から手紙が来る。内容は決まって同じ。楊圭と離縁して巽家に戻りたい、というものだ。妻宛てに送ってくるそれらの手紙は全て燃やしている。戻れる場所など無い事を悟るべきだ。  運よく楊家を脱出できたとしても碌な目にあわない事は私でも理解できるというのに……。  八州公の二つ。  本家筋の姫達はそれを許さない。  
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