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81.八州公2
「あれだけ言っておけば勘違いするお馬鹿さんはでてこないでしょうよ」
クスクスと笑いながら話す坎州公は実に楽しげだった。内容は恐ろしいけど。私は思わず顔を強張らせてしまう。
それにしても、あの後は本当に大変だった。
本来ならば皇帝より先に退出することなど許されない。なのに、坎州公は知ったことかと言わんばかりに踵を返して足早に立ち去ってしまったのだ。
それも飛びっきりの皮肉を言い放って――
『先代も色を好まれましたけど、それは今も同じのようですわね。ま、種のなかった先代と違ってあちらこちらに種を蒔き過ぎているようですけど、それは良しとしましょう。問題は『庶子』ばかりが増えて一向に震家の嫡出ができないことかしら?ふふ。バカボンは一体何を考えているのでしょうか?皇后はおろか皇太子も未だなし。これでは、皇位争いでこの国が亡びかねませんわね。もしもその時がきましたら、わたくし達は高みの見物をさせていただきますけれど。ああ、でもそうなると八州公に累が及びかねませんから、関所を封鎖させなくてはいけませんわねぇ……。まったく!バカボンのせいで面倒なことが増えたものだわ!!』
後半はほぼ悪態であったと思うわ。
しかも、最後の言葉は小声ではなく、かなり大声で言っていた。私も聞いた瞬間に背筋が凍ったぐらいだし。陛下や周囲の臣下たちも顔を引き攣らせて固まっていた。
ここまで悪態をつかれても反論一つしない陛下にも問題があるのかもしれないわね。まぁ、皇帝陛下に悪態をつく者なんて早々……というよりも坎州公くらいじゃないかしら?
その後、八州公達は最初の目的通りに淑妃の挨拶に向かった。何故か私も同行していた。というよりも、坎州公に「杏樹殿を連れて行きますわ」と言われて手を引かれたのでしょうがない。
それにしても、まるで嵐のような方。
まさか朝儀の間中、言いたいことを好き勝手仰るなんて思ってもいなかったもの。
そして現在、姉上の部屋で他の州公達も集まってお茶会を開いている。
「さすが照様。朝儀の場を利用して陛下を牽制をするとは!」
「ええ!素晴らしいお言葉でした」
双子の坤家当主達がそれぞれ拍手をしながら言う。他の八州公の皆さんも同じなのか嬉々としているように見えるわ。もしかして陛下、人気がないのでは?それとも八州公に何か嫌われるような事をしたのかしら?私が首を傾げていれば、察してくれたのか姉上は苦笑を浮かべながら話し始めた。
「杏樹が驚くのも無理ないわ。けれど、これが皇帝陛下と八州公の距離感なのよ。そうね、簡単に言えば、皇帝の権威が及ばないのが八州公と言った処かしら?」
「そうよ。だから杏樹ちゃんは心配しなくてもいいのよ。もし何かあればわたくし達が守ってあげるわ!!」
高らかと宣言する様に言った坎州公の言葉。
その時は冗談の一種として笑って受け流したけれど、数年後、私はその意味を知ることになったのだった―――
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